変わる瞬間
「ああ、やっぱり此処に居た」
「何だ如月か。用事か?」
「用がなかったら、此処まで来ないわよ」
ひょっこりと顔を出したのは、柳と3年間クラスメイトである如月つばさ。
人気の少ない図書館奥の席で、本を読む柳の元を迷わず訪れる。
「で、何の用だ?」
「ん〜、頼まれものなんだけどね」
言いながら、手にしていた手紙を差し出す。
3年間同じクラスで、相手が誰でも物怖じしない性格のつばさは、柳とも普通に話す間柄。
そのせいか時折、ラブレターのお届けや呼び出しを頼まれたりする。
「何度も言うが、何故お前が持って来る」
「何度も答えるけど、頼まれたから」
柳の嘆息と共に問われる質問に、腰に手を当て当然とばかりに返す。
つばさとて、好きでしている訳ではないのだが。
それを目の前の男に言うのは、憚れる。
言ってしまえば、それは己の気持ちを伝えるようなモノ。
「渡されても、答えないぞ?」
「いいんじゃない?それが返事になるだろうし。柳は受け取っても、返さないってそれとなく知られてるからね」
肩を竦めながら、つばさはアッサリと返す。
普段ならそれで柳は渋々と手紙を受け取るのだが、この日は違った。
差し出された手紙ではなく、つばさの手首を掴み自分の方へと引き寄せる。
「ちょっ?!」
驚くつばさを抱き止め、腰を引き寄せてキスをする。
触れた唇は、冷たく。
ゆっくりと離すと、その冷たさとは裏腹に驚いた表情をしながらも、首筋まで真っ赤に染まったつばさが座ったままの柳を見下ろしていた。
手から手紙は落ちて、その手で触れた唇を覆い隠す。
「俺が好きなのは、つばさだ。だから、つばさからその様な手紙を持って来られるのは不愉快だな」
「なっ、そ、……」
「そんな事を知らない。と、つばさは言うが。本当か?本当に、知らないか?」
スッと立ち上がり、今度は柳が見下ろす。
そんな柳に、つばさは思わず後ずさる。
しかし、ほんの数歩下がっただけで背中は本棚に当たり。
それを幸いとばかりに、柳の長い腕が伸びて閉じ込める。
両腕の間に閉じ込められる形になったつばさに、逃げ場はなく。
赤い顔をして、恥ずかしさのあまりか潤む瞳で見上げる。
「そんな表情をして、煽るだけだな」
「な、に……?」
手を退かさせ、顎を掴み上に向かせると再び口付る。
驚き片方の手で胸元を叩くが、それもいつしかなくなり制服を弱弱しく掴む。
ゆっくりと離れれば、真っ赤にしたままのつばさが視線を彷徨わせながらも、小さな声で呟く。
その声に、柳はそっと抱き寄せると。
「俺も好きだ、つばさ」
2人を夕陽が照らす中、暫く抱き合っていた。
それ以降、つばさが手紙の配達などをしなくなったのは言うまでもなく。
変わらずに、2人は一緒に居る。

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