想いは1つ
難しい事なんて、分からない。
分かるのは、ただ一緒に居たい。
ただ、それだけ。
他には、何も分からない。
分からないフリをする方が、ラクだった。
そんな事が許される筈ない事ぐらい、分かっていた。
夏休み。
部活が午前中で終わり、その帰り。
恋人である蓮二に誘われて、蓮二の家を訪れた。
昼食は、簡単なモノを蓮二が作ってくれた。
そうして、そのまま特にする事なく蓮二の部屋で寛ぐ。
その間、蓮二は静かに読書を楽しんでいた。
特にする事のない私は、正直ヒマを持て余していた。
付き合う切欠は、思わず蓮二の誕生日に告白をした事から。
まさかの了承の返事に驚いたのは、まだ記憶に新しい。
何故、自分が選ばれたのかなんて分からない。
一緒に居る時間は、確かに多かった。
けれど、その分。私の性格も全て、この男に知られている。
だからこそ、自分が選ばれる事がない事ぐらい分かっていた。
妹という立場でも、傍に居られるのなら構わないと思っていた。なのに、それなのに、誕生日の時に告白をしてしまったのは。
きっと、蓮二を単なるお飾りとして手に入れようとしている人に奪われたくないという思いから出た、身勝手な嫉妬。
あんな人と付き合うのは、イヤだ。
そう思ったら、口から出た言葉は自分の想いを告げる事だった。
もっと、他に言葉はいくらでもあっただろうに。
何故、私は告白をしたのだろうか。
知らない。
こんな私は、知らない。
涼やかな表情で、読書をする蓮二の横顔を眺めていたが。
視線をそっと外せば。
「観察は、もう終わりか?」
「蓮二は、どうして私を選んだの?」
「何がだ」
「だって、もっと釣り合う人が居るんじゃないの?それに、蓮二の好みって計算高い人でしょう?」
こんな事は聞くべきでは、ない。
分かっているけど、口から出てしまった言葉は取り消せない。
外は、真夏で暑くって。
クーラーを付けずに、縁側から入り込む風だけで涼を取っているせいか。
頭がまともに、働かない。
「私なんか、選ぶ理由が分からない」
「そうか」
「そうだよ。もっと蓮二には、相応しい人が居るよ」
「なら、別れるか?」
「え?」
「俺には、つばさよりも相応しい人間が居るんであろう?それなら、別れるか。と、聞いているんだ」
淡々と告げられた言葉に、口を紡ぐ。
確かに、自分よりも相応しい人が居る。そうは思っても、蓮二と別れる事が出来るかと、問われてしまえば答えは否だ。
だが、そうすると矛盾する。
なんて答えるべきか、考えあぐねていれば。
「誰が何を言ったのかは、知らないが。俺は、つばさだから好きなんだ」
「え?」
「それが、答えだ」
変わらずに、淡々と告げられた言葉。
一瞬、頬を撫でる柔らかな風。
その風に、蓮二の身に纏う香りが鼻腔を擽る。
本から顔を上げる事もせずに、告げられる言葉に偽りはない。
他人の言葉なんて、所詮は戯言だ。
気にする必要なんて、何処にもない。
それでも、不安になる事はある。だからこその、問いで。たった一言だけで、蓮二はアッサリと胸の中のもやもやを解消してくれる。
「そんなに、不安なら」
「?」
「つばさ、おいで」
本を傍らに置いて、両手を広げて呼びよせる。
何の疑問も持つ事なく、その腕の中に吸い込まれるように収まる。
抱き締める腕は、暖かく安心が出来る。
いつの間にか、この腕の中が一番安心出来る場所になっていた。
額をスリ寄せれば、優しく頭を撫でられる。
それが、何よりも気持ち良かった。
この腕に抱き締めて貰えるのなら、それでいい。
瞳を瞑り、全身で蓮二を感じる。
「他人の評価なんて、気にするな」
「え?」
「俺が選んだのは、つばさだ。俺が好きなのは、つばさなんだ」
「れ・・・んじ?」
「先に、告白されたがな」
苦笑とともに、抱き締められる。
強い抱擁に、眩暈がする。
単なる事実を告げる言葉に、つばさは胸につかえていたモノが取れた事に気が付いた。

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