やっぱりキミが好き
「別れよう」
「何故だ」
「ん〜。嫌いじゃないけど、好きでもなくなった。から、かな?うん、今までありがとう」
一方的とも言える、別れの言葉。
嫌いではないけれど、一緒に居てもときめかない。
好きという気持ちが、いつの間にか消えていた。
そうして、別れて数日で。
柳がフリーという話しが、瞬く間に流れ。
多くの女子が狙い始め、告白される姿をよく見かけるようになった。
「で、本当にいいのか?」
「…………。ちょうどいいトコに、幸村。悪いけど、取ってくれない?」
突然、後ろから声を掛けられ。
驚く事なく、静かに振り向いて用事を頼む。
そんな反応に、幸村はつまらなさそうな表情を見せながら、本を取ってやる。
「ありがとう。別に、後悔はしてないけど?」
「ふ〜ん」
「幸村が、そんな事気にするなんて。何かあるの?」
「それは、お前だろう」
ピシッと、額を指で弾いてその場を去って行く。
そんな幸村の後ろ姿を眺めながら、肩を竦めてカウンターへ向かう。
別れた事を、後悔してはいない。
ただ、何か物足りない気がするだけで。
それが、何か分からないのがもどかしい。
 
今朝、起きて鳴らない携帯をぼんやり眺める。
今までは、毎朝必ず柳からコールが入る。
朝が苦手な事を知っているから、毎朝電話をしてくれていた。
あの低く、耳に心地良い声。
目覚めて、一番に聴くのは他の誰でもない柳の声。
溜め息を一つ吐いて、携帯を置いてベッドを出る。
何気ない日常に、至る所で柳の優しさが散りばめられている事を、今更気が付く。
その手を、離したのは他でもない自分。
家を出て、学校に行き。
ただ、ぼんやりと1日が過ぎる。
宿題を忘れても、聞くのは友人になり。
放課後になれば、真っ直ぐに帰る。
テニスコートには、何も変わらずにテニスをする柳の姿。ふと、気が付くと。
視線が、柳を追う。
無自覚なままに、自然と柳を目で追う。
「何してんだろ」
思わず、溜め息一つ。
自分から、手放したクセして。
何故、今更こんなに気になるのか。
図書委員の為に、カウンターに座り。本を読みながら、時間を潰す。
委員の仕事を終え、帰り支度を整えながら思い出すのは、柳との事。
部活を終えた柳を迎えに行き、手を繋いで一緒に帰る。
それが、当たり前だった。
だが、今それが出来ない。
「つばささん?」
「柳生くん」
呼ばれて振り向けば、そこには柳の部活仲間である柳生が立っていた。
つばさの隣りに立つと、柳生は静かに見下ろし。
「いいんですか?」
問いかける。
先日の、幸村と同じ問い。
違うのは、あの時と違い。つばさの中で、迷いが生じている事。
「うん、いいの。だって、私が言った事だし。柳くんも、了承した事だから」
苦笑交じりの笑いに、柳生は「そうですか」とだけ答える。
どんなに後悔しても、もう遅いのだから。
「ですが、泣きそうな顔をしていますよ」
「そ、う?」
「ええ、気が付いてないんですか?」
「分からない、よ」
「そうですか。後悔、なさらないようにして下さいね」
そう言って、先に歩き出す柳生。
その後ろ姿を見送り。
「もう、遅いよ。柳生くん」
呟く。
そう、既にこの手で離してしまったのだ。
どんなに後悔をしても、もう遅い。
好き。なのだ、結局の所。
好きで、大好きで。
その気持ちに付いていけなくて、戸惑って。
そうして、間違えた選択をしてしまった。
本当は、こんなにも大好きなのに。
嫌いになったワケじゃないのは、本当で。
むしろ、もっと好きになっていた。
「どうすれば、いいのかな?私」
立ち止まったまま、呟く。
風に乗って、流される言葉。
行き場のない、想い。
「つばさ」
振り向かなくても、分かる。
その声で、誰だから分かる。
「・・・・・・い。ご、めんなさい。ごめんなさい」
「つばさ」
「す、き。好きなの、本当は。誰よりも、一番好きなの」
言葉が、自然と零れ落ちる。
振り向き、柳を真っ直ぐ見詰めて告げる。
「知ってる」
「え?」
「確かに、つばさは別れると言った。が、俺は何も答えていないぞ?」
「・・・・・・」
柳の静かな言葉に、つばさは言葉を失う。
そんなつばさを楽しそうに、見詰め。
「別れる事を、了承した覚えはないな」
「だって、」
「つばさが、何か思いつめてる感じがしたからな。下手に口を出すよりも、暫く様子を見ようと思っていた」
「そ、んな・・・・・」
「だが、間違ってはいなかったようだな」
「う〜・・・・・・」
「何だ?」
「やっぱり、私は蓮ちゃんが一番好き。そして、負けました」
「そうか」
そう、告げて笑い合って。
どちらからともなく、手を繋いで。
自然と一緒に帰る。
そんな、当たり前の風景。

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