バレンタインB
 街に出れば、連休明けがバレンタインという事もあり。
 どこもかしこも、バレンタイン一色。
 覗きながら、試食をして。
 色々な、趣向を凝らしたチョコ達を眺め。
 今年も配る相手を、考える。
 考えながら、どれを買おうかと。
 チョコを眺め歩く。
 いくつか買い揃え、一息を吐いて。
 最後の難関の相手へのチョコを購入すべく、再びチョコ売場へと足を運ぶ。
 毎年の事ながら、大量に貰っているチョコ。
 その中に埋もれるのも、面白くはない。
 何よりも、普通に渡すのも詰まらない。
 かといって、手作りというのも何にすればいいのか分からなくなる。
 結局、何度も店を覗いては考えあぐね。
 結果的には、いつもと変わり映えのない様なモノを購入したのだった。
「ま、いっか」
 買ったチョコを手に、肩を竦める。



 接点なんて、ドコにもなくて。
 渡す勇気もなくて。
 ましてや、告白だなんて。
 そんな事出来なくて。
 それでも、いつも遠くから見ていた。
 初めて見たのは、中学に上がる前。
 小学校最後の年。
 友人に連れられて行った、全国大会。
 そこで、テニスコートを走る姿を見て一目で恋に落ちた。
 佇まいが美しく、男の人なのにとても綺麗で。
 それでいて、大人びた人。
 和の雰囲気が本当に良く似合う、とても1つ上には見えない。
 そんな人に恋をして、望みがない事は充分分かっていたから。
 だから、いつだって遠くから見ているだけで良かった。
 それでも、それでも。
 こうして、つい買ってしまったチョコレート。
 色鮮やかな、綺麗なラッピングのチョコを両手に抱え歩く姿を見てしまえば、渡す勇気なんて遠くに行ってしまう。
「どうしよう」
 途方に暮れながら、ポツリ呟く。
 渡す事も出来ないまま、鞄の中にはチョコレート。
 家に持って帰るのも、何だか切ない。
 そんな事を思いながら、近くの公園でベンチに腰掛ボンヤリ過ごす。
 渡したい、想いを伝えたい。
 でも、勇気がない。
 そんな葛藤をしていると、視界に移るのは颯爽と歩く姿。
 見間違える筈のない姿に、ベンチから立ち上がり。
 つばさは、一気に走り出す。
「や、柳先輩!」
 公園の前を通り過ぎる柳に、声を掛ける。
 振り向く姿は、とてもゆっくりで。
 つばさは、自分で何をしようとしているのか。
 頭の中が真っ白になりそうだった。
「呼んだか?」
 静かな、静かな声が降って来る。
 呼び止めたものの、どうしたものかと。
 つばさが迷っていると、いつの間にか戻って来て目の前に立つ柳に、意を決し
て。
 鞄から包みを取り出し。
「あの、私は一年の如月つばさといいます。突然、すみません。去年の全国大会で見たときから、ずっと好きです。それで、もし良かったら受け取って頂けませんか?」
 勢い良く差し出しながら、一気に捲くし立てる。
 突然の事に、驚く柳。
 つばさは、失敗したと思いチョコを終おうとするが。
「ありがとう」
 受け取り、柔らかな笑みで鞄に終われる。
 それを見届け、つばさはお辞儀をすると。
「受け取ってくれて、ありがとうございます。突然、すみませんでした」
「いや、こちらこそありがとう」
「私、柳先輩のテニスしている姿が好きです。テニスだけじゃなくて、先輩の人間性も見ているだけで、多くは分からないので何を言ってると思われるかもしれませんが。それでも、好きだと思えるんです」
 真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに伝える。
 それが、叶わなくても。
 届かなくても、良かった。
 ただ、伝えたかった。
「私、柳先輩が大好きです」
 渡せないと、伝えられないと思っていた。
 最後の最後で、やっと渡せて伝えられた。
 答えは、どこにあるのか教えて下さい。
 
 ありったけの、愛を込めて。

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