バレンタインA
 街に出れば、連休明けがバレンタインという事もあり。
 どこもかしこも、バレンタイン一色。
 覗きながら、試食をして。
 色々な、趣向を凝らしたチョコ達を眺め。
 今年も配る相手を、考える。
 考えながら、どれを買おうかと。
 チョコを眺め歩く。
 いくつか買い揃え、一息を吐いて。
 最後の難関の相手へのチョコを購入すべく、再びチョコ売場へと足を運ぶ。
 毎年の事ながら、大量に貰っているチョコ。
 その中に埋もれるのも、面白くはない。
 何よりも、普通に渡すのも詰まらない。
 かといって、手作りというのも何にすればいいのか分からなくなる。
 結局、何度も店を覗いては考えあぐね。
 結果的には、いつもと変わり映えのない様なモノを購入したのだった。
「ま、いっか」
 買ったチョコを手に、肩を竦める。


 月曜日、バレンタイン当日。
 いつものように、テニス部員にチョコを渡して。
 放課後には、みんなが貰ったチョコの数に笑い少しお裾分けを貰って。
 いつもと同じように、家に帰る。
 何も特別な事はない。
 当たり前な日常。
 夕飯を食べて、リビングで寛いで。
 そうして、いつもと変わらず自室に戻る。
 隣りの家の、隣りの部屋からは明かりは灯ってはいるものの、部屋の主は居ないのか。
 室内には、気配がなかった。
 つばさは、机の引き出しからチョコを取り出すと。
 部屋の窓を開け、向かいの窓も無言で勝手に開けるとチョコをベッドに放り投げた。
 毎年の事ながら、変わり映えのない渡し方。
 けれど、幼なじみだからこそ出来る渡し方だとは思うけど。
 しばらくすれば、室内に人の気配。
「ありがとう」
「ついで、よ。ついで」
 一体何のついでなのか、自分で言いながらも首を傾げるが。
 相手、柳蓮二その人も何も言わないので毎年の恒例になっていた。
 再び、室内に沈黙が落ちる。
「つばさ」
「何?」
「コレは、何かの間違いか?」
 柳の言葉に、窓から隣室に侵入を果たすと。
「文句を言うなら、返して」
「いや、文句ではなく…」
 驚きに満ちた表情の柳に、憮然としながらも。
「………と、何だし」
 ボソボソと言えば、案の定聞き返され。
「要らないなら、食べるな」
  取り上げようとして、奪われる。
 身長差から、腕のリーチがあり。
 奪い返せない。
 ムスっと睨み返せば、柔らかな笑みと共に。
「ありがとう」
 言われてしまえば、ソッポを向くしか出来ない。
 今までとは、違う。
 チョコレート。
 手作りじゃないけど、愛を込めて。

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