文化祭準備 面倒だと思ったクラスの文化祭実行委員も、こんな特典があるのなら、なって良かったのかも。 などと、内心で思いながら待ち合わせ場所へ急ぐ。 今年のクラスの出し物は、和風喫茶。 女の子は簡素な着物にエプロンという姿。 男子はそのままで、唯一一人だけ着物が居るのだが。 それが、本日の待ち合わせの相手。 男子テニス部部員であり、生徒会書記の柳蓮二くん。 まさに、和装が似合う男子であり。 お茶を点てられるという事から、本格的とまではいかないまでも、やはりそれなりのモノを出したいという事で。 柳くんの指導により、お茶を点てたりする事になり。 部活に委員会と忙しい柳くんは、文化祭当日は給仕というのではなく、オーナーとして居て貰う事となり。 夏休みの今日は、実行委員である事からオーナーである柳と共に、いくつか必要な材料等の仕入れに行く事になったのだ。 待ち合わせ場所に行けば、既に柳は着ていた。 スラリとした長身にサラリと着こなされた服装は、普段から大人びているが。 私服になると更に、大人びて見える。 「う〜ん、格好いい男だな〜・・・」 長い脚はチノパンに隠されているが、美脚だというのは女子の間で噂になっている。 淡いブルーのTシャツに、白いボタンシャツを羽織り、均整の取れた体躯に似合っている。 「この私服姿って、写メしたら売れるかな〜?」 「肖像権の侵害だぞ」 「わっぁ!」 「おはよう」 「あ〜…、おはよう。脅かさないでよ、私の小鳥のような心臓がって、待て待て待て!」 いつの間にか目の前に立ち、挨拶を交わしたのも束の間。 せっかくの話を無視して歩き出す柳に、慌てて追い掛ける。 追い付けば、足のコンパスの差を感じさせない。歩きやすいよう、歩調をあわせてくれている。 「ありがとう」 「迷子になられても困るからな」 「うっ!」 お礼を言えば、サラリと返され言葉に詰まる。 私が方向音痴なのは、有名な話なので仕方ない。 「それで、今日は材料の仕入れの注文と着物のレンタルでいいの?」 「その予定をしている。サイズは聞いて来てあるか?」 「聞いた聞いた」 「そうか。では、先に着物の方に行くとしようか」 「ん。………時に、マスター」 「………何だ」 「着付けって、どうするんでしょうか?」 そんな私の質問に、柳の足が止まる。 当然私も止めて、見つめあう。 少しの沈黙のあと、柳は溜め息を吐くと。 「誰か出来るのではないか?」 「確認したんだけど、1人も居なかったんだよね〜」 笑って言えば、更に盛大な溜め息。 かなりその場での勢いで、着物と決まったモノの。 冷静に考えると、着付けを出来る人が見事に居なかった。 「とりあえず、行くぞ」 「え?」 「着付けは、1人が出来るようになればいいだろう?あとは、教え合えば問題ない」 言いながら、慣れた足取りでお店へ向かう。 着物のレンタルをするに当たり、柳が懇意にしている着物のお店を紹介して貰う事になり。 そこへ向かっていた。
「わ〜、綺麗」 「ほう。お前でもわかるのか」 「それって、失礼じゃない」 「それは失礼」 店内に飾られている着物に目移りしながらも、借りる着物の話を進め。 段取りも付いて、帰ろうとした所。 「すみません。もう一つお願いがあるんですが、いいですか?」 「蓮二くんがお願いするなんて、珍しいわね。いいわよ」 「彼女に着物の着付けを教えて欲しいんですが」 「へ?私?!!」 驚く私に構わず、柳は知り合いの店員さんに話を付け。 明日、私は再びお店を訪れる事にいつの間にかなった。 店を出て、少し早めのランチをする事になり。 近くのファーストフードにてお昼。 「で、どういう事よ?」 「どうも何も。この場合、他に選択肢はないだろう?お前以外に人は居ない、だが着付けを覚えなければならない。一度で覚えられるとは思えないしな。それなら、早い方がいい」 淡々と説明されてしまい、白旗を上げるしかない。 結局、着付けは私が覚えて。 2学期になったら、他の子に教えるというので決着は付き。 材料の仕入れに関しても、問題なく終える事が出来た。 「さて、これで本日の予定は全て終えたな」 「そうだね。お疲れ様でした」 「ああ、お疲れ。明日からは、頑張ってくれ」 「う・・・。頑張らせていただきます」 駅前にて、最終確認をして。 予定が全て終わった事に、ほっとする。 「まあ、時間があれば様子を見に行くよ」 「その時は、ぜひとも和装でお願いします」 「そうだな。それで、街中を歩くのも良いかもしれないな」 どこまで本気なのか、そんな言葉を残して。 駅で柳と別れる。 文化祭の準備が、なんとなく楽しくなってきた。 とりあえずの目標は。 「着物を着付けられるようになって、着物デートかな」 そんな事を呟きながら、駅のホームへ向かう。 [ 48/53 ]← →
TOP
|