マニキュア
あまり好きではないのだが、たまに。
本当にごくたまに、何の気紛れなのか。
マニュキアを塗りたくなる。
小さな爪に塗るのは、結構大変で。
風呂上りのまま、髪を乾かすのもそこそこに。
必死になって、悪戦苦闘をしていた。
その様子を静かに眺めるのは、恋人である蓮二。
「何をしている?」
「見ればわかるでしょう?」
言外に、話しかけるな。と、オーラを出せば。
溜息が一つ零れ落ちてくる。
「貸してみろ」
「え?」
「お前がやるんじゃ、いつまで経っても終わらないぞ?」
意地の悪い笑みを浮かべながらも、瓶を奪うと。
器用な手付きで、蓮二は綺麗に塗っていく。
それは、悔しいぐらいに自分で塗るよりも出来栄えは鮮やか。
「足も塗るか?」
「い、いいの?」
「ついでだ」
ソファーに座ったままの私の脚を取ると、自分の膝の上に乗せ。
そうして、丁寧に塗っていく。
ひやりとした感触、触れる吐息。
見下ろす旋毛。
普段とは違う、姿。
まるで執事のようなその姿は、酷く蠱惑的。
足の爪に掛かる息に、何でもないと言い聞かせながらも逸る心音。
震える脚に、参謀と呼ばれる男が気が付かないワケがない。
それでも両足を塗り終え。
「ありがとう」
「どういたしまして」
お礼を述べて、脚を取り返そうとするが。
キッチリと掴まれてしまって、逃げられない。
「れ、蓮二?」
「こうして見ると、随分と小さな脚だな」
「な、に?」
「愛らしい」
微笑を浮かべると、まるで騎士が忠誠を誓ったかのように脚の甲に口付ける。
口付け、誘うように見上げてくる。
その視線に、心臓が飛び上がる。
ダメだ、視線を逸らさないと。
そう思っても、捉えられた瞳は逸らす事が出来ない。
視線を合わせたまま、唇はゆっくりと脚を伝い上がって来る。
「んんっ!!」
甘い吐息が、零れ落ちる。
そうして、太腿にまで上がった唇は離れ。
抱き寄せられ、唇に荒々しくキスをされる。
「んっぅ!!」
「報酬を、貰わないとな」
「なっ?!」
「当然だ、タダより高いものはないというだろう?」
楽しそうに笑いながら、軽々と抱き上げ。
軽い足取りで寝室へと向かう。
どうやら、風呂から上がってから構わなかったのがお気に召さなかったようだ。
明日の朝の事は、全て恋人である蓮二に任せるしか他はない。
溜息を付きながらも、これからの甘い一時に心震わせ瞳を閉じる。
それが、合図。

[ 47/53 ]

TOP


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -