幸福恐怖症
 幸せになるのが、怖かった。
 幸せと感じれば感じる程に、その幸せを喪う事を考えると怖かった。
 必要以上に触れないように、近付かないように。
 一線を引いて、距離を置いて。
 『幸せ』と、感じないように。
 それなのに、なのに。
「つばさ?どうした」
 優しく頭を撫でる手は、大きくて優しい。
 その手に撫でられると安心して、全てを委ねたくなる。
 見上げれば、優しい瞳が見詰め返してくれる。
 全てを受け止めてくれる、包み込んでくれる。
 甘えてしまいたくなる。
「優しくしないで」
「何故だ?」
「怖い」
「怖い?」
 問い返しに、頷き返す。
 俯き、小さな声で。
「幸せになるのが、怖い。その幸せを喪うのが、怖い」
 言った瞬間、抱き締められる。
 優しく暖かな腕の中。
 強張る身体を優しく抱き締め、ゆっくりとした手付きで背中を撫でる。
 安心しろと、言うように。
 強張る身体を宥め、安心させるように抱き締める。
「怖いか?」
「・・・少し」
「少しずつ、慣れて行こうな」
「・・・離さない?」
「当たり前だ」
「ん」
 おずおずと、つばさから腕を伸ばして抱き付く。
 怖いのは、幸せになる事ではなく。
 この温もりを喪う事なのかもしれない。
 そう思いながら、安堵の息を吐く。

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