昔語り
「陽だまりのような笑顔で、いつだって包み込んでくれるの。意地っ張りな私を、笑って赦してくれる」
「たった一つしか違わないのに、それがとても気になっていて。時折、拗ねるのよ」
「背が高くって、勉強も出来てスポーツも出来てね。誰にでも、優しくて皆に好かれてた」
「とっても、とっても好きだったの」
 青空を見上げ、約束の地に立ち。
 淡々と、懐かしむ。
 昔の話。
 学生の頃、とても好きで。大好きで、愛していた。
 もう一度、再開の約束をして。
 きっと、結婚をするんだろうな。
 そう、夢を見ていた。
「逢いたい」
「逢って、伝えたい」
「私は今、とても幸せだって」
「一つだけ、約束を果たせたね。私は、幸せだから」
 もう、逢う事は叶わない。
 それを知った時、絶望し悲しみで生きる気力を失った。
 それでも、立ち上がり。
 再び、前を見て歩く事が出来るようになったのは。
「つばさ」
「蓮ちゃん」
 呼ばれて振り向けば、カーディガンを手にした青年が立っていた。
「冷えると、お腹の子に障る」
「ありがとう」
 受け取り羽織れば、優しく抱き締められる。
 つばさの我儘で、訪れた地。
「幸せだよ、私。蓮ちゃんと出会えて、結婚をして。そうして、子供が生まれるの」
「愛してる、つばさ」
「この幸せは、ずっと続くの」
 背中を預け、後ろから抱き締められ。
 つばさは、空に向かって語り続ける。
 柔らかな風が、2人を包む。
 まるで、祝福をしているように。
「ありがとう、大好きだった人」
 別れの言葉。
 決別を付けるのに、長い長い年月が掛った。
 それでも、柳はそんなつばさをずっと見守り。
 そして、この先もずっと傍に居ると誓った。
 生まれて来る我が子と、暖かな家庭を築く為に。
 つばさは、昔語りに訪れた。
 来る事が出来なかった、地へ。

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