バイト(財前)

うああああと、唸りとも悲鳴とも付かない声を上げていると。
「なんや、どないしたん?」
優しい声が頭上から降ってくる。
知り合った当初はツンツンしていて、付き合ってからも慣れるまではやっぱりツンツンしていたのに。
今では、こんな風に優しい声を聴かせてくれる。
これが彼女の特権なのであろうか?
そんな事をぼんやり考えながら、名前は目線だけで財前を捉えると。
「明日、バイトなの」
「ああ。そいや、せやったな。それが、どないしたん?」
「手際が悪くって」
「そんなん、慣れてないんやからしゃーないやろ。誰かて最初は慣れてないんやで?そんなん当たり前っちゅー話や。ちょっとずつ慣れていけばええねん。名前は名前のスピードで、頑張り」
優しく撫でる手に不覚にも泣きそうになる。
そうして、コトリと置かれたマグカップからは暖かい湯気が立ち。
鼻孔をくすぐる甘い香り。
寒くなってきたこの季節にはちょうどいい、ココアだ。
「コレ飲み。明日、名前なりに頑張っておいで。したら、明日は特別に迎えに行ったるで」
「本当?」
「約束や」
顔をやっと上げる名前に、優しいキスを一つ。
戻る笑顔に、財前も笑みを浮かべ。
2人でココアを飲みながら、穏やかな夜を過ごす。
そんなある晩の出来事。





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