求婚の日(不二)

1月27日、日曜日。
世間一般で言うところの、休日。
例に漏れず、私も仕事は休みで特段予定もないので、寒いしここ数日忙しかったのもあり惰眠を貪る事に決めた朝の穏やかな時間を破ったのは、携帯の着信音。
何となく起きたら、出たら負けと思い頭から布団を被り、無視して寝ようとすると鳴り響いた音は止んで、再び静寂を取り戻す。
それに安心して夢の世界に旅立とうとすると、家の電話が鳴り響く。
しかし、此方は直ぐに留守録に切り替わる。
「何、何時まで寝てるのかな?僕からの電話に出ないなんて、いい度胸してるよね。9時に迎えに行くから、用意しててよね」
留守録に吹き込まれる魔王様、もとい恋人の声に飛び起きる。
今日は、約束はない筈だったけど、迎えに来ると言われてしまえば用意するしかない。
慌ててシャワーを浴びて、身仕度を整える。
「おはよう、名前」
「おはよっ、周助」
時間より少し早くマンションの下に行けば、マンション前に車が停められて、不二の爽やかな笑顔が眩しく挨拶を交わす。
「でも、吃驚したよ。予定なかったのに、さ」
「予定なかったら、デートに誘ったらダメだったかな?」
「滅相もございません!」
助手席に乗り込み、慌てて首を横に振って否定する。
迂闊な事を言って、後で恐怖体験は遠慮したい。
そんな私に、周助は笑うだけで済ませてくれる。
どこに行くのかは、聞かないままに車は迷う事なく走り、以前行きたいと行った軽井沢のアウトレットで、ショッピングデートを楽しみ、冬の寒さも忘れる程に時間は過ぎて行く。
夕方になり、陽が落ちる頃。
「名前、夕飯の前にちょっと付き合って欲しい所があるんだ」
「うん?」
突然の周助の言葉に驚きながらも、手を引かれて街中から少し外れて歩く。
2人を包む陽の光はゆっくりと落ちていく中、静かな道を言葉少なに歩く。
繋ぐ手が、2人の体温を伝える。
そうして付いたのは、森の中に静かに佇む教会。
「此処?」
「そう。名前、今日が何の日か知ってるかい?」
「え、今日?」
慌てて脳内のカレンダーを引っ張り出すけれど、特段何の記念日もない筈で、私は内心焦るしかなかった。
「ふふ、今日はね求婚の日だよ」
「え?球根?」
「字が違うと思うけど。……、名前」
「はい?」
私の言葉に、クスリと笑うと姿勢を但し改まって名前を呼ぶ周助に自然と改まった声で返事をしてしまう。
「求婚、結婚を申し込む日だよ。僕と結婚してくれませんか?」
柔らかな微笑みを浮かべ、優しい声で告げる周助の言葉に驚き言葉を喪う。
2人を包む温かな陽が、落ちて夜の暗闇が灯る中を一斉にライトが照らし出す。
暗いはずの森は、教会を照らすようにライトが星明りのように照らし2人を包む。
「え?わぁ……」
「綺麗だろう?名前の為に準備したんだよね、今日という日にあわせて」
「周助……」
「返事は?」
「はい!」
「ふふ、良かった。まあ、Noは聞くつもりないけどね」
柔らかな笑みと共に、一瞬黒い笑みが見えたけど気が付かないフリをして2人で、灯されたライトを暫く見詰める。
忘れられない日。




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