求婚の日(仁王)

仁王雅治を一言でいえば、「捉え所のない男」それに尽きる。
知り合ったのは、随分と昔の事で。
そもそもの始まりも、何の気紛れなのかのんびりと一人でお昼をしていたお弁当を勝手につまみ食いされて挙句の果てには自分にも作って来て欲しい。
それが、二人の関係の始まりであり。付き合っているのか、曖昧な関係は社会に出てからも続いていた。
不確かな関係は、それでもお互いに心地が良く。
どことなく、仁王は野良猫のような気がしてフラリと来ては自由気ままに過ごして、またフラリと何処かへ行く。
何処に行くのか、気にならないワケではないが。それを聞いてしまったら、二度と来てくれないような気がして聞けないまま。それでも、この関係性は心地が良かった。
「猫を拾わんか?」
突然の訪問は、相変わらずの言葉で苦笑を誘う。
体を退けて室内に促せば、スルリと本当に猫のように音を立てずに入る。
行儀よく靴を脱いで慣れた足取りで、リビングへ向かうと。広くはない室内のリビングに敷かれたラグにゴロリと転がると、猫のように仁王はゆったりと寛ぐ。
そんな姿に苦笑をしながらも、慣れた名前は特段気にする事もなく。
珈琲だけを淹れて、近くに置いてから夕飯の続きに取り掛かった。
寒い日が続くので、一人鍋をと思っていたが。あまり食べないにしても、仁王が訪れた事により急遽献立を変更。
それでも、身体が温まるのをチョイスして作っていけば。
香りにつられたのか、身を起こすとスルリと近付いて手元を覗いて来る。
「どうしたの?もう少しで出来るから、待ってて?あ、もしかして苦手なのがあった?」
「いや、相変わらず器用ぜよ」
「ありがとう」
「なぁ、聞いてもええかのぉ?」
「ん?」
「なして、俺の事を招き入れるん?断ってもええんよ?」
「猫、みたいだからかな?」
突然の言葉に、若干戸惑いながらも応えればククッと背後で笑う仁王。
「面白いぜよ。お前さんは、ほんま飽きん。なぁ、名前」
「え?」
滅多に呼ばれない名前で呼ばれ、驚いて振り向けば。
そこには、真剣な表情をした仁王が真っ直ぐに見つめて来る。
緩く首を傾げれば、仁王の腕が伸びて来てそっと抱き締められる。
驚けば、やはりいつもの人を食ったような笑みはどこにもなく。あるのは、真剣な瞳が真っ直ぐに見つめてくる。
「に、仁王?」
戸惑い名前を呼べば、フッと笑みを一瞬浮かべたものの。
「お前さんの飼い猫になら、なりたいと思うぜよ」
「え?」
「こんな俺じゃけ、それでもいいんなら嫁に来んしゃい。幸せにしちゃる」
「じょー……」
「冗談じゃなか。今日は、求婚の日やけ。他の誰かの飼い猫になるつもりは、ないぜよ。名前を選んだけぇ。返事は?」
「……、なら。飼い主になってあげる。いつでも、美味しいご飯を作るよ」
「んっ」
仁王らしい言葉に、笑って答えれば子供のように無邪気な笑顔で頷き抱き締められる。
あまりにも、仁王らしいプロポーズは忘れられない日と言葉になった。




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