隣り(大石)

私には、何もない。
勉強もスポーツも人並み。
顔だって人並みで。
気が付けば、その差は開く一方。
幼馴染みで、昔はいつもその後をくっついていたのに。
いつから、こんなに距離が開いたんだろう?
違う。
私が勝手に離れたんだ。
あまりにも、自分とは違いすぎて。
一人僻んで。
最後の試合になるから、見に来て欲しいって言われて。
行く事に躊躇して、それでも気が付けば足を運んでいた。
会場には、たくさんの人。
応援する人に紛れ込み、息を飲み込みながら試合の行方を見つめる。
そうして、優勝と聞いた瞬間涙が溢れ出る。
こんなにも、こんなにも好きだという事を思い知る。
大変な時に何も出来なかった。
すぐ近くに居た筈なのに、自分から避けてばかりで。
だからこそ、そんな身勝手な自分は隣りに居る事は出来ない。
それでも、もう一度幼馴染みとして。
隣りに立ちたい。
必要なのは、たった一つの勇気。
「秀ちゃん」
「ん?ああ、見に来てくれたのかい?」
「う・・・ん。最後、だからね。優勝、おめでとう」
「ありがとう」
「凄かったね、試合」
「そうだね。とてもいい試合だったよ、これで悔いはないかな」
「もう、テニスしないの?」
「ああ。これからは、勉強に集中したいからね」
「そっか」
「どうかしたのかい?」
「ううん。ただ、もったいないなって。テニスしてる姿、恰好良かったから。もう見れないんだなって」
何気なく呟いた言葉に、驚かれ。
首を傾げながら見上げれば。
「じゃあ、またこれからもずっと隣りに居てくれたら。たまに、見せるよ」
「え?」
「さ、帰ろうか」
その意味の真意をはぐらかされ。
それでも、久し振りに繋いだ手からその想いが伝わる。
これからゆっくりと、秀ちゃんみたいに何か目標出来るように頑張ろう。
そう誓った夏の夕暮れ。




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -