夏祭り(幸村)

夏の風物詩の一つとして上げられるのは、やはり夏祭りであろう。
名前は、夏祭りの為に浴衣を新調したばかりだった。
黒い生地に鮮やかに咲き誇る薔薇の花。
スラリと伸びた長身の名前に良く似合うその浴衣は、淡いピンク色の帯でリボン結びにして可愛らしさを表現していた。
この浴衣を身に着けて、恋人である幸村と夏祭りに行けたらと思っていたが。
テニスで忙しい幸村に、そんな事は難しいかな?と思っていた中、一通のメールが届いた。
それは、来週の土日に開かられる近所の小さなお祭りへの幸村からの誘いだった。
即、了承の返事をして。
名前は慌てて、髪型をどうするか友人たちへ相談のメールを送った。



待ち合わせ場所に行けば、そこには既に幸村が待っていた。
外灯の下、浴衣に身を包んだ幸村が立っていた。
周囲の女の子の視線を集める姿は、幻想的な王子様のようで。
その実、性格はかなりのドSで影では魔王などと言われている。
「名前」
「お待たせ、精市」
「たいして待ってないよ」
にっこり微笑む姿は、やっぱり王子様のようだ。
2人が並ぶ姿に、周囲の視線が集まる。
普段は下している髪を綺麗に結い上げ、綺麗な項が露わになっている名前は、装いもその美しさに引き立ち、浴衣姿の美しい少女となっていた。
「うん、面白くないな」
「精市?どうかしたの」
周囲の男の視線が名前に集まるのを感じた幸村は、笑顔で呟いた。
自分の恋人が自分の為に、綺麗に装ってくれるのは嬉しい。
嬉しいが、自分以外の男の視線を集めるのは到底許せるモノではない。
「名前、お祭りはまた今度ね?」
「え?」
驚く名前の腕を掴むと、家に向かって歩き出した。
突然の豹変に名前は驚き、自分の装いが変だったのであろうか?と、考え込む。
そのまま幸村の家を訪れ、自室へと。
「あの、精市?」
「うん?」
「どうしたの?急に」
「名前がいけないんだよ?」
「え?」
幸村の言葉に驚いて、見上げれば。
そこには、妖笑を浮かべて幸村。
室内の電気は付けておらず、窓から差し込む月明かりが幸村の姿を照らし出す。
浴衣姿の幸村に、心臓が煩いぐらいに動き出すのを名前は実感する。
「こんなに綺麗になって、さ」
頬を撫でながら、近付く。
そんな幸村に、ドキドキしながら後ずさる名前。
「他の男に見せて、どうしたいのかな?」
「そ、そんな・・・。わ、私はただ精市に・・・」
「でも、綺麗に装った名前を見ていたんだよね、俺以外の男が。それって、すっごく気に入らないんだけど」
ベッドの端に脚がぶつかり、ドサッとベッドに倒れこむ。
そんな名前を上から見下ろし、綺麗な笑みを浮かべると。
「ねぇ、名前。この姿は、俺だけが見ればいいと思わないかい?」
「せ・・・・・・」
「他の男が見るなんて、気に入らないんだ。だから、お仕置きしてもいいよね?こんなに俺の心を乱したんだから」
無茶苦茶な論理を展開されるが、名前に反論の余地はない。
帯に指を掛けられ。
「折角綺麗に着付けてくれたけど、俺としては何も身に着けてない名前が、一番綺麗だと思うんだ」
どこまでも、笑みを崩さない幸村に名前に抵抗する気はどこにもなく。
幸村の首に腕を回し、軽いキスを送ればそれが2人の合図。





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