3.動き始める輪

駅近くの雑貨店に、つばさは蓮二と共に訪れていた。
「蓮二くんの誕生日って知ってたら、ちゃんと用意しておいたんだけど」
「新しい学年となると、そうそう誕生日など知る機会もないしな。ましてや、この年だと誕生パーティーなども行わないからな」
「確かにそうだけどね」
苦笑を洩らしながらも、シンプルだけど使い勝手のいい栞を購入するとつばさは「おめでとう」と言いながら、渡す。
「ありがとう。俺からも、実はあるのだが」
「え?」
「誕生日ではないから、受け取れないと言うだろうが」
先手を打って店を出てから鞄から取り出して渡したのは小さなポプリ。
先日、桃子とつばさが訪れた時に買おうかどうしようか迷っていたというのを聞いていたのを購入しておいたのだった。
「でも・・・」
「先日の中間考査にて、桃子が数学で平均を上回ったら褒美を寄越せと言ってただろう?」
「うん。それで、この間デザートを奢ってたよね?」
「同じように平均を上回ってたつばさに、何もないのはどうかと思うしな。一緒に教えておいて、片方に渡して片方になしは不公平だと思ったが、桃子のように食べ物もどうかと思ってな。気に入らないか?」
「でも、教えて貰ったし・・・」
「貰ってくれると、ありがたいのだがな」
微苦笑を浮かべる蓮二を見上げ、少し躊躇うものの。
「そうだね。折角蓮二くんが選んでくれたし、すごくいい香り。ありがたくいただくね?」
「ああ」
「ありがとう。枕元に置いて寝るよ」
「気に入って貰えたなら良かったよ。・・・・・・我が花嫁」
「ん?」
「いや、なんでもない」
最後の言葉は小さく、つばさの耳には届かない。
首を横に振る蓮二に再度礼を述べて、つばさは鞄に仕舞う。
自宅近くまで送り、蓮二はつばさの後ろ姿を見詰めながら笑う。
踵を返し、周囲に人が居ないのを確認すると、円陣を描いて通り抜け。
大きな和風の家屋に辿り着く。
永い時を生きる間に、人の生活に馴染む事を覚え、時には式鬼を操り家族を作り学生生活を送り社会人として働いてみる。



「お帰りなさいませ」
「ただいま。精市達は、戻っているか?」
「奥にて、準備を整えております」
家に辿り着くと、自動的に玄関が開き主を迎え入れる。
出迎えるのは、蓮二が信頼する同じ一族の老紳士。
真っ直ぐ、家の奥に進めば途中から石で作られた壁の廊下を歩く。
表向きは日本家屋であり、屋敷の大半は純和風の造りをしている。
しかし、その更に奥は特殊な陣が編まれた壁をすり抜けて本来の居城へと繋がっている。
暗い廊下を照らすのは、仄かな蝋燭の灯りのみ。
「お帰り蓮二、祝いの挨拶に長老達とかが来てるよ」
「弦一郎が相手をしているのだろう?それなら、相手をさせておけばいい」
仄かな灯りが照らす室内で、優雅に紅茶を楽しんでいる精市に声を掛けられ肩を竦めながら蓮二は答える。
煩わしい相手などするのは、面倒でしかない。
ソファーに腰掛ければ、スッと蓮二の前に紅茶が置かれる。
「準備は整ったか?柳生」
「ええ、抜かりはありませんよ」
微笑して答える柳生に頷いて答える。
この部屋にいる中で、唯一生粋の吸血鬼は蓮二のみ。
あとは全て、蓮二が血を吸い仲間にしたに過ぎない。
よって、それぞれの名前を使い分けて呼び強制力を殺いでいる。
名前は呪縛力が強い。それに耐えられるだけのモノがないと、名前で呼ぶのは危険でしかない。
その辺りの事はイヤというほど、蓮二は身を以て知っている。
故に、仲間であってもそれぞれの特性を理解して名前を呼ぶか呼ばないかを選択していた。
「そうか。そろそろ動くだろうからな、抜かりなく進めてくれ」
「ええ、分かっていますよ」
そう答えると柳生は姿を消す。
「それにしても、彼女でいいのかい?」
「ああ。問題はない」
幸村の言葉に紅茶の香りを楽しみながら、蓮二は先刻のやり取りを思い出し笑みを浮かべる。
全ては動き出したのだ、後戻りはもう出来ない。
あとは、最後につばさが何を選択するかだ。


[*prev] [next#]

[ 戻る ]






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -