2.運命の音が鳴り始める

学生生活も始まり、授業は勿論クラスにも慣れた頃。
つばさは蓮二とその友人と仲良くなっただけでなく、クラス内の女子とも交友関係を築いて楽しい学生生活を送っていた。
「つばさ、おはよっ」
「おはよう」
「昨日言ってた本、持って来たよ」
「ありがとう、桃ちゃん」
「どういたしまして」
クラスでも一番といっていい程、仲が良い浅井桃子。
蓮二と同じく中学からの持ち上がりであり、偶然にも中学時代のクラスメイトでもあった。
その関係からではないが、つばさに一番最初に声を掛けたのが桃子であり。
桃子を通して、つばさは彼女の友人達とも親しくなった。
「それにしても、よく付き合えるよね」
「え?」
「柳達だよ、あのテニス部の連中によく付き合ってるよね」
「付き合ってるって、放課後の事?」
きょとんとつばさが問い返すと、桃子は頷いて返す。
入学式の日にテニス部の練習を観に行って以来、つばさはテニスを観るのが楽しいとほぼ毎日のように練習を観ては、前日の夜に作って置いたお菓子を部活終了後に差し入れをしていた。
自分ではテニスを出来ない分、彼らがテニスをしているのを観て自分がテニスをしている気分になると言い、コート脇がに定位置を作って観ていた。
「そう。テニス部って、練習が遅いじゃない?」
「うん」
「それなのに、毎日のように付き合ってるから」
「でも、観てるの楽しいし。それに、大体は蓮二くんが家まで送ってくれてるから。帰り道もね、楽しいんだよ?蓮二くんって、読書の量が凄くって色々と話してくれるしね」
「あー、なるほどね」
そんな他愛もない話をしながら、二人は教室へと向かう。
さすがに、朝練の見学はしないので朝の登校はごくごく普通の時間帯。
テニスコート脇を通り、運よくコート脇に誰かが居れば挨拶を交わして校舎に入り。誰も居なければ、そのまま教室へ。
そんなつばさと桃子の後姿を静かに、蓮二は見守る。
「そろそろ、準備を始める頃ではないか?」
「ああ、そうだな。弦一郎、手配を頼む。俺の方はつばさへの準備を整える」
「了承した。始まりは、蓮二の誕生日で問題ないな?」
「そうだな」
静かに蓮二の後ろに立ち、声を掛けるのは真田弦一郎。
生真面目を絵に描いたような性格の真田は、準備を任せるのに一番の適任である事は長い付き合いで分かっている。蓮二自身もつばさへの準備をしないといけないので、その他の準備は真田に全て任せる事とした。
「幸いにして、俺の誕生日は満月だそうだ」
そう呟き、再びコートへと向かう。
何も変わらない日常が始まる一方で、つばさの周囲は静かに動き出す。
本人の知らない所で、静かに。
蓮二が教室に行けば、つばさは桃子と楽しそうに談笑をしている姿が見える。
静かに二人の近くに行けば、すぐにつばさは蓮二に気が付き笑顔で挨拶をしてくる。
「おはよう、蓮二くん」
「おはおう」
「朝練お疲れさん」
「ありがとう」
つばさに続いて、桃子も言葉を掛けて苦笑をしながら返す。
時間的にもHRが始まる頃になるので、桃子はつばさに声を掛けて自席に戻って行く。
「蓮二くん、後で数学の宿題を教えて貰えるかな」
「構わないが、最後の問題か?」
「うん。どうしても、途中で躓いちゃって」
身体が弱く、外に出る事もままならなかったつばさは出来る事が少なく。
学校でも、身体を動かす事が出来ない為に勉強に力を入れる事と色々とな本を読んで過ごす事で一日を過ごしていた。
その為に、成績自体は悪くはないが苦手科目はどうしてもあってその一つが数学であった。
基礎的な事は理解出来るが、応用が苦手な傾向があり。その苦手意識が、筆を止めてしまう事が多々あった。
これまでにも何度か、つばさの宿題を見て来た蓮二は二つ返事で了承をするとタイミング良く担任が入って来て、話はそこで中断した。
蓮二がつばさを初めて見たのは、つばさが14の年。
直接に接触を図る前に、つばさの事は性格や思考に家族構成など様々な事を調べていた。
外見だけでなく内面を知った上で、惹かれた。
一族の長という地位に一番近く、条件のほとんどを満たし残るは一つだけという蓮二の周囲には様々な女が近付いて来た。
それ故に、女を見る目というのは備わるようになったし、何よりも騙されるような事はない。
己の目で見て、調べて知る事で判断をする。それが、何よりも一番大事な事でありそれ引いては一族の長としての素質を備えている事になっていた。
そんな蓮二の事情など一切知らないつばさは、学校生活をする上で何かと親切にしてくれ。また、様々な事を教えてくれる蓮二というのはかけがえのない存在であった。
何よりも、生まれてこの方異性で此処まで仲良くなったのは初めての相手でもあった。

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