1.桜が舞う頃

桜の花が咲き始める季節、全国では一斉に入学式が執り行われていた。
例に洩れず、私立立海大学附属高校でも入学式が行われていた。
新入生の一人である、如月つばさは真新しい制服に身を包み期待に胸を膨らませていた。
3月に中学を卒業すると同時に、この海の見える街へと越して来た。
中学時代の友達と別れる事になったが、それでも新しい街で新しい出会いがある事への期待の方が大きく、楽しみで仕方がなかった。
校舎前に設置された掲示板で、クラス発表がされているので苦労をしながらなんとか自分の名前を見付ける。
「E組か・・・」
自分のクラスを確認してから、校舎へと向かう。
廊下には同じく新入生であろう生徒達が、期待や不安が入り混じった表情で立ち話をしたり、教室へと向かう姿が見られる。
つばさはそんな中をゆっくりと歩いて、教室へ向かう。
新しいクラスで、どんな友達が出来るか。
人見知りをあまりしないつばさは、ドキドキしながら教室のドアを開く。
室内には半数しかまだ来ていなかった。
黒板を見れば、空いている席に好きに座るようにと指示が書かれているのでつばさは迷わずに後ろの窓際の席に座る。
その様子を教室の後ろで、見守る少年が3人。
「蓮二、彼女がそうかい?」
「ああ。如月つばさだ」
「なるほど。それで、俺達はどうすればいい」
「当面は、周囲に気を付けてくれればいいだろう。動く時が来たら、頼む」
「心得た」
「了解したよ。ともあれ、蓮二は彼女と仲良くなるべきだね」
「そうだな。では、また後ほど」
3人はそんな話をすると、蓮二と呼ばれた少年は席に座ったつばさに近付き。他の2人の少年は、その様子を見てから教室を後にした。
隣りに人の立つ気配がして、つばさが顔を上げると。
「隣りをいいだろうか?」
「あ、はい。どうぞ」
驚きながらも、つばさが頷くと。「ありがとう」と、笑みを浮かべて蓮二は座る。
「あの、私は如月つばさっていいます。高校からこの街に越して来たんです」
「そうなのか。俺は、柳蓮二だ」
「柳くん・・・あの、友達になって貰えませんか?」
思い切ったつばさの言葉に、蓮二は一瞬驚いた表情を見せるがすぐに笑みを浮かべて了承の返事をする。
「わ〜、嬉しい。良かった、誰も知ってる人が居なくって。隣りの席に座った人に、一番最初の友達になって貰おうと思ってたんです」
「そうか」
「はい。だから、柳くんみたいな優しそうな人で良かった」
にっこりと嬉しそうに笑むつばさに、蓮二は思わず苦笑を洩らす。
疑う事を知らないつばさは、学校という場所で騙されたりする事などないと思っているのだろう。
閉じられた空間は時として、歪んだ感情が生まれる。
疑う事を知らない純粋な人間を見付ければ、利用しやすいと思う者が出る事もあるし。その純粋さに心惹かれ、守らないとと使命を燃やす者も居るだろう。
「とりあえず、友達というのであればそんな畏まった口調はどうかと思うが?つばさ」
「え?あっ、えと・・・」
クスリと笑いながら、指摘をしながら名前を呼べば戸惑い顔を紅くするつばさ。
そんなつばさを見つめながら、蓮二は自分の選択が間違っていなかった事を認識する。
「普通に喋ればいい」
「あ、うん。そ、そうだよね・・・ありがとう、えっと・・・蓮二くん」
戸惑いながらもおずおずと名前を呼ぶつばさに笑って頷く蓮二。
それにホッとした表情をするつばさは、蓮二に中学の出身を尋ねる。
「俺は中学からの上がり組だからな、何か迷う事があれば遠慮なく聞いてくれ。ほとんどの事は答えられるからな」
「そうなんだ、良かった。あ、入学式が始まるみたいだね」
「そのようだな。では、講堂に移動しようか」
「うん」
立ち上がり、二人で講堂へと移動する。
初日は入学式と、新しいクラスでの簡単なHRのみで終わる。
教科書など必要なものは既に貰っているので、その日の荷物はほとんどない。
まだクラスに知り合いが蓮二しか居ないつばさは帰り仕度をすると、隣席の蓮二に声を掛ける。
「蓮二くんは、何か部活をするの?」
「ああ。中学からテニス部に所属しているからな。つばさはどうするんだ?」
「私、実はずっと身体が弱くって。運動って苦手なんだよね」
「そうなのか。今は?」
「あ、今はもう大丈夫。でも、運動って今まで出来なかったから苦手なんだ。でも、観るのは好きなの。良かったら、見学をしに行ってもいいかな?」
「ああ、構わない。それなら、中学からの仲間を紹介出来るぞ」
「本当?」
「男ばかり、になるがな」
苦笑交じりに告げる蓮二に、首を横に振り「友達が出来るのは嬉しいから。迷惑じゃなかったら、ぜひ」と答え、つばさは気が付かないままに蓮二の思惑通りに事が運ばれる。
友人を作るのは問題ないが、出来れば自分を一番近くの位置に立ち。仲間と親しくなって貰う方が、蓮二としては行動しやすくなる。
ニコリと笑み、つばさを連れて教室を後にする。
入学式の日であっても、強豪として名が高い男子テニス部は練習が当然のように行われる。
中学からレギュラーとしてテニスをしており、名前が通っている身であれば同じ一年でも初心者と経験者では練習が違う。
テニスをしている所を見せられるだろうし、何よりも退屈をさせる事なく身近に置けるだろうという事まで考え、テニス部へと案内する。
こうして、つばさは入学式の日に蓮二と友人関係を結び。
そのまま、蓮二の仲間とも面識を持つようになった。
「上手く事が運んどるようやな、さすが」
「仁王か」
「しかし、我々だけでなく同性の友人も出来ないと後々面倒な事になりませんか?」
「その辺りは考慮しているさ。明日からは、クラスに友人を作るように仕向ける。心配はいらないさ、柳生」
「まあ、柳くんでしたらその辺りの心配はいりませんでしたね」
幸村を始めとする仲間を紹介すれば、屈託のないつばさはすぐに仲良くなり。
コートの端で、幸村と丸井に真田を交えて談笑をしていた。
その様子を少し離れた所で眺める蓮二の元に、仁王と柳生がやって来る。
中学時代に蓮二達はそれなりに人気があり、女子の視線を集めていた。
高校に持ち上がり組は当然居るし、そうでなくとも目立つのだ。
つばさがそんな蓮二達だけど交友を深めて居れば、女子の反感を買うのは簡単な事だ。
しかし、そんな事は蓮二が望む事ではない。
つばさが知らぬ間に、そんな会話が繰り広げられ。
そうして、つばさは気が付く事なく蓮二達に見守られる事になる。
学校生活は、まだ始まったばかり。
運命の扉が開くのは、もう少し先の事。

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