-5-

校門で待っていると、柳が遅れてやって来る。
そんな柳に苦笑すると。
「ごめんなさい。柚月姉と陸が変な事を言ったりして」
「イヤ、気にするな」
「そうですか?」
「つばさ、聞いてもいいか?」
「はい。なんでしょう」
「何故、そんな口調なんだ?敬語は辞めて貰えないだろうか」
柳の言葉に、つばさは立ち止まると。
同じように立ち止まる柳を、静かに見詰める。
「ダメですか?」
「ダメというか、距離を感じるな」
「距離ですか?……そのように感じさせてしまったのならば、謝ります。ですが、今の私にはコレが精一杯なんです」
まるで、それ以上は触れて欲しくないと言わんばかりな態度に、柳は小さく溜め息を吐く。
「すまない。暫く、距離を置こう。つばさが、分からない」
「距離を置いたら、余計に分からなくなりますよ?」
突然の言葉にも関わらず、つばさは静かに返す。
しかし、柳はそれに答える事なくもう一度だけ言うと歩き出した。
「では、夏休みが始まる前。終業式にもう一度会いましょう」
後ろ姿に声を掛け、つばさは柳を見送る。
柳の姿が見えなくなると、踵を返し猛然と歩き出す。
目的の場所へ、会うべき人の所へと。



つばさと別れ、掛けられた言葉に生徒会室での出来事を思い返す。
知り合ってから、日は浅い。
長く一緒に居る幼馴染みである生徒会長達の方がよく知ってるのは、当然の話だ。
けれど、それを抜きにしてもつばさの言動は不可解な事が多すぎる。
親しき仲にも礼儀あり。とは言っても、付き合っているのだから、敬語は辞めて貰いたいというのは当然の要求だと柳は思っている。
読書傾向は幅広く、それ故に見識も広く、論じる事は多々あり、見掛けやクラスでの様子が全てではないのは、解る。
それでいて、甘えたがり。
しかし、今となるとその甘えは作り物ではないかと疑ってしまう。
柳の思考は掻き乱され、答えを見付けられずにいる。
答えを出すには、暫く時間がある。
その間に、集められるだけのデータを集めよう。
そう柳が決意する頃、つばさは幼馴染みであり親友である麻緋の元を訪れていた。
「……って訳なんだけどね?」
「いつもながらに、悪どい」
「えー……、そんな事ないよ〜……」
麻緋のバッサリと切る言葉に、頬を膨らませるつばさは、麻緋と共に話を聞いていた少年に問い掛ける。
「そんな事ないよね?」
「……俺、こんな妹ヤだ」
「ひっどーい!蒼空くん酷い!」
「酷くない!ああ、その柳が可哀想すぎる。兄として、謝りたい」
「ちょっと、蒼空くん。ダメだからね?話たりしたら、5年ぐらいは麻緋とのデートとか邪魔するよ」
ジトッと見詰め、実兄である蒼空に冷ややかに告げる。
四人兄妹の末っ子であるつばさは、3つ上の兄である蒼空と親友の仲を祝福しながらも、複雑そうにしていた。
そんなつばさと蒼空のやり取りを、麻緋は笑って見守るのは、いつもの光景。
「でも、ある意味つばさらしいけどね」
「え、そっかな?」
「褒めてないからな」
「むー……」
「ああ……、兄貴助けてくれ」
「お兄なら知ってるよ」
笑う麻緋に、居ない長兄に助けを求める蒼空。
そんな蒼空に、つばさはアッサリと言う。
つばさより、10歳上の長兄海斗。
この春から社会人になった海斗は、一人暮らしをしているが、つばさは何かあると長兄に電話したりをしていた。
「兄貴、知ってるのかよ」
「うん。ほどほどにだって」
笑って答えるつばさに、ガックリとする蒼空。
そんな蒼空を慰める麻緋に、笑うだけのつばさ。


[*prev] [next#]

[ 戻る ]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -