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私立立海大学附属中学に、入学して早一月は経過した。
大半の新入生は、部活を決めて連休を部活に勤しみ。夏の大会に向けて、放課後の活気は勢い付いて来た頃。
放課後の教室に一人、静かに読書をする少女の姿。
夕焼けに照らされ、普段の姿とは違う印象を与えるのは、如月つばさ。
どの部活にも所属しないつばさは、時折教室で静かに読書を楽しんでいた。
窓から吹き込む風は、心地好く。
部活に励む喧騒は、読書をするのにちょうどいい音楽。
時に、外を眺めたりしながら放課後の時間を過ごす。友達が居ない訳ではなく、寧ろ多い方のつばさは、人懐っこい性格をしており男女区別なく、友達が居る。
そんなつばさにとっては、この一人で過ごす時間は貴重であり、大切にしていた。
読む本は、大抵は図書室から借りて来るが。時として、自分で購入した本を読んだりもする。
尤も、5月に入ってからは、図書室で知り合った先輩に借りた本を読む事が多くなった。小柄なつばさにとっては、図書室の本棚は高く。時として、届かない事があった。
届かないので脚立を探すが見付からず、困って居た時に、取ってくれたのが1つ年上の柳蓮二。
男子テニス部に所属する柳の話は、クラスメイトである切原から、何度となく聞かされていたので、知っていた。
知っては居たが、実際に間近で対面したのは図書室でが初めて。
しかし、本を取って貰ったのを切欠に話をしてみれば、その知識の豊富さや思慮深さ。
それらの全てが、同年代よりも遥かに落ち着いていて、つばさにとってはそんな柳は好印象であった。
学校生活では、明るく活発であるつばさだが。家では、末っ子であり幼馴染みも大半が年上のせいか、実は甘えたであり同年代の子供っぽさには興味を持てないでいた。



チャイムが鳴り響くのを確認すると、本を鞄に仕舞い教室を後にする。
静かな校舎を、ゆっくりと歩き昇降口を出て、テニスコートの近くを通りながら学校を後にする。
駅から少し離れた、立海の生徒があまり来る事のない喫茶店に足を運ぶ。
奥の席に座り、紅茶を頼んで外の景色をのんびり眺めていると、普段の歩調より若干足早に喫茶店に向かって来る柳の姿に、笑みが自然と溢れ落ちる。
些細な事でありながらも、その些細な気遣いにつばさは、柳に恋をした。
「待たせてすまない」
「いいえ、お疲れ様です」
店内に入ると、迷う事なくつばさの座る席に来て、一言詫びてから座る。
そんな柳に、緩く首を振りながら事前に頼まれていた本を鞄から出して、テーブルに置く。
「コレですよね?」
「ああ、すまない。助かる」
「お役に立てたのなら、良かったです」
騒ぎ立てられるのを好まない柳の提案により、この秘めやかな密会は週に1度行われ。
話す内容は、面白い本についてが大半であり、そんなささやかな時間がつばさの大切な時間でもあった。
この日も、何時ものように新刊図書の話題で盛り上がり、帰宅時間を迎える。
帰り道は同じである為に、喫茶店を後にして薄暗い街中を歩き駅に向かう。
「つばさは、俺と話をしていて楽しいか?」
「楽しいですよ。柳先輩とこうしてお話しする時間は、私の楽しみなんです」
唐突な柳の問い掛けに、笑って答えると。
もう少しで駅に着くという所で、柳はつばさの腕を掴み通りから外れた横路に入る。
驚きながらも、大人しく柳に着いて行けばいつの間にか高台にある公園に辿り着き、展望台へと足を運ぶ。
「わぁ、こんな景色初めて見ました!」
ちょうど、太陽が沈み街が夜に変わる瞬間を目にして、感嘆の声を上げる。
「つばさ」
「はい?」
呼ばれて振り向けば、視界に広がる白いシャツ。
柳に抱き締められていると、認識すると突然の事に戸惑い固まる。
そんなつばさの様子に、楽しそうに笑うと優しく髪を撫でて。
「このままでは、つまらないな」
「え?」
「意味、わからないか?」
「えっと……」
柳の言葉に、つばさは驚き思考を回転させるが首を横に振る。
そんなつばさに笑って、さらに抱き締める腕を強くする柳に、戸惑いながらも背に腕を回して、抱き締め返すつばさ。
「なんか、落ち着きます。……好きです」
「その好きとは、どういう意味だ?」
小さく呟いた声は、シッカリと拾われて問われる。
「え?えと、その……何というか、ごめんなさい。恋愛の意味で、好きです」
「そうか、俺もつばさが好きだ」
「うそ……」
「こんな事を嘘付いてどうする」
勢いよく顔を上げるつばさに、苦笑しながら答えれば、「そうですよね……」と呟きはにかんで見つめる。
「俺は、嫉妬深いし独占欲が強い。離さないぞ?」
「望む所ですっ」
柳の言葉に、笑って返し名前で呼んでもいいかと躊躇いながら問うつばさに、柳は頷き答える。
「えと、蓮二先輩」
「ダメだ」
「ええ!?だ……ダメですか?」
「ああ、それはダメだ」
シュンとするつばさを再び抱き締めれば、ハッとした表情になり、おずおずと。
「蓮二」
「なんだ?つばさ」
「大好きっ」
名前で呼び、照れながらも告げる言葉に柳は優しく触れるだけのキスをする。
「俺もつばさが好きだ。離さない」
「離さないでね、蓮二」
ゆっくりと夜空に月が昇る頃、二人は手を繋いで帰路に着く。

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