0.運命の扉が開く

夏の暑い日、身体の調子が良く日差しが少し強いけれど風が吹いていて気持ち良さそうだったので、森へと出掛けたのが全ての始まりだった。
14になったばかりの私は、生まれつき心臓が弱く長くは生きられないと宣告されていた。
中学に入ると同時に、少しでも空気のいい所へと引っ越しを決断した両親はこの自然の多い町へと越して来た。
家から少し歩けば、自然豊かな森がありそこで森林浴をするのが私のお気に入り。
都心まで片道約3時間の町は、緑豊かで私の身体の調子は越してきてから安定するようになったのは確かであり。逆を言えば、そのせいで父親が毎日通勤が大変になってしまった。
それを申し訳なく思うが、父親は笑って「お前が元気でいてくれるなら、それで良い」と優しく言ってくれる。
そんな優しい父に、申し訳なく思うけれど私はこの町が気に入っていた。
白いワンピースにカーディガンを羽織り、サマーサンダルを履いて慣れた道をゆっくりと歩いて森の中を散歩する。
まさか、発作を起こすだなんて思いもしてなかった。
「だ・・・だれ、か・・・」
伸ばす手は空を切り、きっと此処で誰にも看取られずに死ぬんだと思ったその時に。
視界に黒い靴が写る。
視線を上に上げれば、逆光で顔がよく見えないけれどこの暑い季節に全身を黒一色で統一したその人は、耳に柔らかく響く声音で囁いて来る。
「このまま、死を選ぶか?それとも・・・・・・」
その先の言葉の意味を、私はその時よく理解してなかった。
ただ、死にたくない。
その想いだけで、選んだ。
その選択が、この後の運命を決める。
私の記憶はそこで途切れ、次に気が付くと病院のベッドに寝かされていた。
母親曰く、倒れていた私を親切な人が病院まで連れて来てくれたそうだが。お礼を言おうにも、その人は何も言わずに去ってしまった事と、看護師さんが見た事のない人という事から、この町の人ではないのだろうと結論付けられ。
私は暫くの外出禁止令が下された。
その夜、私は首筋に小さな紅い華が咲き誇っているのを見つける。
華とはいっても、まだ蕾の形をしているけれど。
それが一体なんなのか、わからない。
ただ、コレと引き換えではないけれど。
検査入院を余儀なくしていた私は主治医から、驚くべき事実を告げられる。
それは、心臓に異常がなくなっている事。
突然の事態にどう対処するべきか、判断は難しい所ではあったけれど。
外出禁止令を親から言われてしまった私は、その時間を病院で過ごし数度の検査を経て間違いなく、心臓の状態が問題ないと医師に告げられる事となった。
そうして、その後に両親は大喜びをして高校進学を機に街に戻る事を提案したのだった。
ぼんやりとしか覚えてないが、あの倒れた時に助けれてくれた人が何か魔法でも使ったのか。
そうとしか思えない奇跡。
そして、それと引き換えに現れた紅い華が示すのは一体何なのか。
私はあの時に、一体何と引き換えに何を選んだのか。
全ては闇の中。
確かに自分で何かを選んだ筈なのに、思い出せない。
けれど、あの日に私の運命が動き始めたのは確かだった。


高校進学先を決めて、勉強に励んだ私は希望の高校に無事合格をした。
そうして、新年の参拝を新しく住む街でしたいと両親に頼み込み。
私は一人、新しい街へと行く。
両親にお願いして探しておいて貰った神社に向かうと、そこにはたくさんの人。
「うわ〜、凄い人」
あまりの人の多さに呆然としながらも、人の波に沿って並ぶ。
ふわふわの白いコートに身を包み、両手には同じく白の手袋。
頭にも白のふわふわの帽子を被り白一色に身を包む。
時間は掛かったけれど、無事にお参りを済ませて神社を後にしようと歩いていると。
人混みに酔ったのか、足がふらつく。
「おっと」
「あ、すみません」
「大丈夫か?顔色が悪いな、此方で休んだ方がいいだろう」
よろめいた瞬間、腕を掴まれ顔色を覗きこまれ近くのベンチへと。
黒のロングコートに身を包み、長い脚は黒のズボン。
艶やかな髪も黒い、綺麗な男性。
「す、すみません」
「構わないさ。少し休んだ方がいい、顔色が悪い。寒くはないか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「それなら良かった」
二コリと笑むその人に、胸がドキリと高鳴る。
男性にしては綺麗な、中性的な人。
背は高く、細いけれど倒れた時に片腕で支えてくれた事から細いだけではないのであろう。
「気を付けるといい、人混みは酔いやすいからね」
「あ、はい」
「顔色も少しは戻ったようだな。気を付けてお帰り、花嫁さん」
首筋の赤い華を長い指が撫で、耳元に囁かれる言葉。
驚き見上げれば、一陣の風が吹き荒れ目を瞑る。
目を開ければ、誰も居ない。
「花嫁?」
不思議な人。
そう結論付け、私はゆっくりと神社を後にする。
その後ろ姿を静かに見送る瞳がある事に気が付く事なく。
そうして春になって、私の運命が動き出す事も知らないままに私は家へと帰る。


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