15.答え、華開く

目の前に置かれた紅茶を見詰めながら、つばさは考える。
何を選ぶのが一番最良か。
幸いにして、蓮二は急かす事はせずに待っていてくれる。
「あの、ね。聞いてもいい?」
「どうぞ」
「なんで、私なの?」
「ふむ。最初は、俺の夢に現れた少女が気になっていたんだ。そう、先日の現文の授業で、つばさが披露したのを覚えているか?」
「あ、うん」
「あの言葉のように、俺は夢の少女をずっと待っていた。そうして、あの夏の日に散歩をしているつばさを見付けた。夢の少女が、つばさだと思ったんだ。むろん、それからつばさの事を知る事によってそれは確信に変わり。そうして、知る事によってつばさを愛おしく思うようになった。俺が選択を迫っている事を、酷いと思うのであろうな。だが、俺には俺の生き方がある。一族を率いる長としての誇りもあるし、他の者に渡すつもりはない。だから、つばさをどうしても花嫁としたかった。他のを花嫁にする気になんてなれないからな」
問うた事の答えは、予想にも反して。
優しく愛情に満ちた言葉だった。
その一方で、恥ずかしくもあった。
こんな風に誰かに愛されたいと思った。
いつか、誰かに愛されたいと願った。
それを叶えてくれるのは、蓮二なのかもしれないとつばさは思う。
何よりも、つばさは何故彼女たちを襲ったのかを考えれば必然と答えは見える。
何の事はない、つばさもいつしか蓮二を友人としてではなく一人の男性として好きになっていた。
彼女たちに、嫉妬をしていたのだ。
簡単すぎる答えに、思わず笑ってしまう。
「つばさ?」
「あのね、もしも花嫁となったら私はどうなるの?」
「どうもしないな。成長が止まるだけで、あまり変わりはない。求める血は、俺が与えればよいだけだし。今のまま家族と過ごす事も可能だよ」
「え?」
「人は、いつしか結婚をする。そうしたら、家を出るだろう。それと同じようにつばさも家を出て俺の元へくればいい。それまでは、週末に我が家に招こう。その間に、少しずつ身体を慣らせばいい。成長も今止まったとしても、問題はないだろう。元々身体が弱かったのだからな、違和感はない」
アッサリと告げられる言葉に、拍子抜けをしてしまう。
まだ、両親の元で暮らしてもいいと。
それはつばさにとって嬉しい事であった。
懸念すべき事案は、もうどこにもなかった。
答えは既に出ている。
けれど、つばさはどうしても言われたい言葉があった。
今まで聞いた言葉ではなく。
「蓮二くん」
「ん?」
「決めたよ、私」
「聞かせて貰おうか」
「その前に、ね。私、どうしても欲しい言葉があるの」
真っ直ぐ、蓮二の瞳を見つめれば。
フッと優しく微笑み、手が伸ばされる。
指先が優しく頬を何度か撫でると。
「そうだったな。俺とした事が、失念していたようだ。では、改めて言わせて貰おうか。つばさ、好きだ。付き合って貰えないか?むろん、最終的には俺の花嫁になって貰う事が前提だが」
「私も蓮二くんが、好き。私でよければ」
「良かった。断られたら、どうしようかと思ったが」
「そうなの?自信満々に見えたけど」
「そう見えたか?」
「うん」
頷いて答える。
燦々と降り注ぐ太陽の光の元、穏やかなお茶会が始まる。
選んだ答えは、共に同じ道を歩く事。
人の理を外れる事は、今は実感は沸かない。
けれど、きっと大丈夫だろうとつばさは思う。
何が一番いいのかなんて、わからない。
答えは、正解などどこにもないのだから。
ただ、自分の気持ちに正直になっただけであり。
そして、選んだ答えを後悔したくはない。
この先の事なんて、何もわからないけれど。
それは、誰にもわかりはしない事。
「蓮二くん、大好きだよ」
16の誕生日、つばさは一つの決断を下した。


後日、行方不明となった少女は無事に家へと帰った。
本人達も何があったのか、何も覚えていなかった。
その時には、つばさは蓮二の隣りに立つ事を自然としていた。
時間はたくさんあるのだからと、ゆっくりとお互いの事を知るようにしようと蓮二は提案をしてくれ。
それに賛成した。
「こんにちは」
「やあ、つばさいらっしゃい。蓮二なら、奥に居るよ」
「ありがとう、幸村くん」
蓮二の家を訪れれば、柔和な笑みを浮かべた幸村が出迎える。
つばさを驚かせた一つに、幸村を始めとした蓮二のテニス部の仲間と紹介した彼らが蓮二の眷属であるという事。
そして、彼らはつばさを蓮二の花嫁として自然と受け入れてくれた。
「蓮二くん」
「いらっしゃい、つばさ」
奥に行けば、整えられた庭園で蓮二が出迎える。
誰にも邪魔されない、2人だけの時間が始まる。

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