10.約束の日

結局、つばさは午前の授業に出る事なく保健室で過ごし。
昼休みに教室へと戻った。
「お、顔色良くなったね」
「寝不足だったのかな〜?」
「ちょ、自分の事でしょうが」
桃子にそんな突っ込みをされながらも、つばさは笑って蓮二に礼を述べて弁当を広げる。
「あまり無理をしないようにな?無理をしても、何もいい事はないのだから」
「うん、ありがとう。気を付けるね?」
「何にしても、良くなって良かったね。午後の授業を受けたら、真っ直ぐ帰って家でも、休むんだよ?」
「そうだな。やはり自宅が一番落ち着くだろうし、何より最近物騒だしな」
「あ〜、ね?接点も何もないから、警察も困ってるらしいし」
「早く見つかるといいよね」
「そうだな。つばさ、帰りは気を付けるんだぞ?」
「うん」
「ちょっとー、私の心配はないの?」
「桃子は心配しなくても、逆に退治するんじゃないのか?」
「酷い!ちょっと、聞いたつばさ?酷くない?」
重くなりそうな空気も、一瞬で笑いに変わる。
この数日で、3人もの人が行方不明になるのも驚きだが、つばさは2人には言ってないが。
それぞれ、3人と接点を持っていた。
どれも些細な接点ではあるが、接点というよりも偶然のモノと言った方がいいのかもしれない。
それでも、少なくとも言葉を交わした事のある人物が立て続けに行方不明になるのは不安になる。
「つばさ?どうかしたのか?」
「え?」
「何やら、思い詰めた表情をしているが」
「あ、ううん。なんでもないよ?」
蓮二の指摘に慌てて首を横に振って、笑う。
ただでさえ、心配を掛けてしまっているのだから。これ以上、迷惑は掛けられないとつばさは、それまで考えていた事から意識を外す。
そうして、他愛もない話をしながら昼休みを過ごして午後の授業を問題なく過ごすとつばさは桃子と一緒に帰宅の途に就いた。
「じゃあ、今日は早くに寝るんだよ?」
「うん。また明日ね」
分かれ道、手を振りあってそれぞれ自宅へと帰る。
その日、つばさはいつもよりも早くに休むと。
それまでとは違い、顔の見えない青年に手を引かれて月明かりの下。
美しい庭園へ導かれ、噴水近くのテーブルに案内されて差し出された香り豊かな紅茶と美味しいクッキーを食べて過ごす。
静かな空間、月明かりに照らされた美しい庭園。
美味しい紅茶にお菓子。
言葉は何もないけれど、つばさはホッと息を吐いた。
それまでと全く違う夢だが、心が落ち着くのを感じていた。
そんな何とも不思議な時間を過ごす夢を見、翌朝起きると目覚めはスッキリしていて、怠さは何処にもなかった。



「そろそろ、約束の日になるんじゃないか?」
「ああ、そうだな」
「彼女は一体、どちらを選ぶのかね」
目覚めるつばさを見送り、幸村は蓮二の隣りに立つと呟く。
己は、眷属になる事を望んだワケではなかった。
あの絶望から逃れたかった。
けれど、幸村は蓮二の眷属となり時にその片腕として働くようになっていた。
蓮二に付き従う眷属の中でも、一番長く傍に居る。
だからこそ、蓮二がこれまで執着を見せた事のない。
選ぼうともしなかった花嫁を、初めて選び執着したつばさの存在が気になった。
最後に、つばさはどちらを選ぶのかを。

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