8.求めた華

何度も何度も、この手をすり抜けるように見続ける夢。
そこで、自分に向って笑いかける少女。
そろそろ花嫁を迎える頃であろうと、言われ続け。
仕舞には、迎えなければ一族の長として認めないと言われる始末。
そんな己に苦笑を漏らす。
いくらでも選ぶ事は出来るが、自分が求めるのは違う。
あの夢の中で、屈託なく笑みを向ける少女ただ一人。
酔った幻が見せているのだとしても、あの笑顔を自分は求めてしまっているのだ。
だから、あの笑顔の少女を見付けた時に。
そこに待ち受ける障害を分かっていても、手に入れたいと思ってしまった。
人と相容れぬ種族である事は、百も承知だ。
同じ時を生きたい。共に、歩んでほしいと願ってしまった。
だから、己の欲望に従うまで。
人はそれを残酷というのだろう。
しかし、蓮二にとってはただ欲しいと思った少女に出会ったのだから。
手に入れるまでと自然と考えただけ。
どれだけの労力を掛けたとしても、厭いはしない。
この手に、あの少女を抱き締められるのなら。
そして、花が咲く笑みを自分に向けてくれるのなら。
静かな夜空、浮かぶ三日月を見つめ。
琥珀色のワインをゆったりと飲みながら、蓮二は眷族である友人達を呼び戻す。
全ては、たった一人の少女を手に入れる為。
「・・・・・・」
「おや、起きましたか?」
「眠って?」
「ええ、少々の時間ですが。飲みますか?」
フッと目を覚ませば、近くで紅茶を淹れて居た柳生が声を掛けて来る。
カップから香る紅茶の芳香を楽しみ、一口飲む。
懐かしい夢を、見た。
つばさを見付けた事、そして欲しいと思った理由。
まだ夜は更けたばかり。
此処につばさが訪れるには、まだ早い。
ゆったりと紅茶を飲みながら、順調に事が運んでいる事に蓮二は満足げに笑みを浮かべる。
予想以上に、つばさは吸血行為を同性にしかしていない事に心の何処かでホッとしている自分に、蓮二は気が付いていた。
吸血行為は、一種の性行為に似ている。
それは何とも言えない快感を得る。
だからこそ、蓮二は自分以外の男にして欲しくないと思っていた。
まだ、完全には目覚めていないが。つばさは確実に、こちらの世界へと堕ち掛けている。

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