7.紅い華、翻弄される夢

「効果はあるみたいだね」
「そうでなくては、困る」
「怖いのぉ、参謀は」
先に教室に戻るつばさと桃子の後姿を見送りながら、幸村は蓮二に声を掛け。それに答える蓮二に、仁王は薄らと笑って言う。
そうして、何も知らないつばさはまた夢を見る。
繰り返される夢。
翻弄される自分。
流される・・・。
そう思っていても、どうする事も出来ずに居た。
「おはよう」
「あ、おはよう」
「ぼんやりして、大丈夫か?」
「え?あ、うん。ちょっと寝不足気味みたいで」
「そうか」
朝を迎え、いつも通りに学校に向かう。
朝練を終えた蓮二とコート近くで待ち合わせて、一緒に教室へ行くようになったのはいつの頃だったか。
今では当たり前すぎて、これが普通な気がしてしまう。
他愛もない話をしながら教室へと向かっていると、下駄箱で靴を履き替えて居る時に、スッと腕が伸ばされて首筋に触れられる。
「なっ?!」
「ああ、すまないな。襟元に糸クズが付いていた」
「そうなの?ありがとう」
「どういたしまして。・・・・・・紅い華、か?」
触れられた指がひんやりと冷たい事に驚きながら、夢での指と同じように感じて戸惑う。
戸惑いながらも、問われた言葉に苦笑しながら。
「華っていうか、蕾かな?気が付いたら、あったの」
「そうなのか」
「うん。痛みとかは、ないんだけどね?」
そんな話をしながら教室に向かっていると、途中でまた一人行方不明者が出たと囁く声が聞こえる。
此処最近、数人の少女が姿を消す事件が起きていた。
もっとも、数日すれば何事もなかったように戻って来る。そして、戻って来た少女たちは、姿を消していた間の事は一切覚えていなかった。
覚えていないが、彼女たちの首筋には皆が皆まるで吸血鬼にでも噛まれたような跡が残されていた。
姿を消していた間の記憶がないだけど、それ以外には何も異常は見つからずに再び日常に戻って行っていた。
「つばさも、気を付けるのだぞ?」
「うん。ありがとう」
頷いて答えると、優しく頭を撫でられる。
この頃のつばさは、少女達が姿を消す事件よりも己の身に起きている些細な異変に悩んでいた。
夜になると、喉の渇きは一層増して記憶が一時的に失う。
記憶が戻ると、渇きは満たされており。そうして眠りに就くと、いつもの夢を見るのだった。
溜息を吐きたくなるような事に、つばさは席に就いて外を見やる。
「如月!」
「は、はい?!」
「ぼんやりして、外に何かあるのか?」
「す、すみません」
授業が始まっていた事に気が付かず、つばさは教師から軽く注意をされる。
そうして注意ついでに、宿題を披露するようにと言われる。
現代文の授業で出された宿題は、詩でも俳句でも短歌でも良いので、何か文章を作ってくる事だった。
何を作るか悩んだつばさが選んだのは、いろは歌を自分なりにアレンジする事だった。
同じ言葉を二度として使わない。
それだけをルールとして、何度も書き直しては完成させたモノ。

「はかなきゆめわ(儚き夢)
みえたるにこうけい(見えたる光景)
ゑひてせす   (酔いてせす)
やましいあゐろをと よりをおく (疾しい隘路をより多く)
それも さちつねならむ(それも 幸常ならむ)」

ゆったりと読み、そうして訳を読む。

「儚い夢が見せる光景、酔ってもないのに
疾しい障害が多く
それも 幸せと同じか」

「いろは歌か?」
「あ、はい」
「よし、座っていいぞ」
教師の許可を得て、つばさは座る。
そうして、ホッとした所に。
「綺麗な歌だな」
「ありがとう」
「良ければ、貰えないか?」
小さな声で隣りから、声を掛けられ驚いていると。
再度、蓮二は小さな紙に書かれた歌を貰えないかと問うて来る。
「こ、コレで良ければ・・・」
「ありがとう」
ニコリと笑むと、紙を受け取る。
一体何がそんなに気に入ったのか、つばさは首を傾げるが本人が喜んでいるのならいいかと思い直す。
そうして、その後は特に変わった事もなく一日を過ごして行く。
「効果はあるみたいだね」
「そうでなくては、困る」
「怖いのぉ、参謀は」
先に教室に戻るつばさと桃子の後姿を見送りながら、幸村は蓮二に声を掛け。それに答える蓮二に、仁王は薄らと笑って言う。
そうして、何も知らないつばさはまた夢を見る。
繰り返される夢。
翻弄される自分。

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