6.無自覚な想い

あれから、つばさは寝直して朝を迎える。
「なんか疲れたかも」
溜息を吐きながらも起き上がり、制服へと着替える。
軽い疲労感はあるものの、休む程でもないと考えて家を出る。
夏が近いせいか、陽射しが強い。
一瞬目が眩む気がしたが、首を横に振って駅へと向かう。
ゆっくりと歩きながら、思い出すのは昨夜の夢。
これまでと同じでありながら、違う。
あのまま起きなかったら、自分は夢の中で。
そこまで考えて、顔を紅くする。
あの声はクラスメイトで友人である蓮二くんの声だった。
「好き、なのかなぁ?」
「何が好きなんだ?」
「ひゃっぁ?!」
「驚かせてしまったか?すまないな、つばさ」
「び、吃驚した・・・」
突然の声に、驚きの声を上げれば。
好きかも知れないと思っていた相手が突然現れて声を掛けてくるのだから、つばさは慌てふためく。
その姿に、笑いながらもすまないともう一度謝罪の言葉を口にする蓮二。
「それで、何が好きなんだ?」
「な、内緒」
本人を前にして言える筈もなく、つばさは答える。
蓮二もそれ以上の追及をする事もなく駅へと向かう。
「そういえば、今日は朝練ないんだ」
「ああ。今日は部活休みだ」
「ありゃ、そうだったの?じゃあ、どうしよう」
「丸井への差入か?」
「うん。今日はクッキーにしたんだよね」
部活後にお腹が空くと言っていた丸井に、一度だけお菓子を差し入れたら、それが気が付けば定着して日常化となっていた。
もっとも、丸井だけでなく他の部員も食べたりしているが。
「それなら、昼の時に渡せばいいだろう」
「お昼、お邪魔していいの?」
「構わない」
二つ返事で了承を貰い、つばさはその日の昼食を友人である桃子を誘って蓮二達と共に食べる事にした。
夏が近付く陽射しに、目を細めながら屋上で輪になって思い思いに昼食を食べ始める。
既に丸井にはクッキーを渡してあり、食事後に食べると宣言をしていた。
ゆったりとした時間が流れる中、つばさは少しの疲れを覚えていた。
夢見が良くないのが関係しているのだろうか。
「つばさ、顔色良くないけど大丈夫?」
「ん、大丈夫だよ。この陽射しに身体が慣れてないせいかな〜?」
「そいや、つばさって身体が弱かったんだっけ?」
「うん。だから、夏の陽射しって直接浴びる事なんてした事なくって」
苦笑を洩らしながら答えれば、そっか〜と丸井は呟く。
その手には、クッキーが握られていた。
弁当をゆっくりと食べながら、隣りに座る蓮二の顔をコッソリと見る。
いつもと変わらない涼やかな表情で、弁当を綺麗な箸使いで食べている。
夢の中での手の主は、顔は見えなかった。
ただ一度だけ、声が聞こえただけで。その声は、間違いなくこの隣りに座る蓮二であった。
一度だけだが、間違えはないと確信をしている。けれど、逆にそれがつばさを戸惑わせた。
何故、あんな夢を見て手の主が蓮二なのか。
自分は気が付かない間に、蓮二に恋心を抱いていたのだろうか。
それ故にあのような夢を見たのか。
「ぼんやりと蓮二を見詰めて、どうかしたのかい?」
「え?」
「あれ?もしかして、無自覚だった?」
柔和な笑みを浮かべながら、幸村は首を傾げて問う。
その姿は中性的な顔立ちのせいか、どこか少女めいていて。
けれど、彼が少女ではない事はコートに立つ姿を一度でも見た事がある人間ならば誰もが知っている。
幸村が紛れもなく男であるという事、そして部長という肩書を背負っていたせいがあってか、観察力が鋭いという事も。
真っ直ぐ見て来る幸村に、つばさは困った表情で首を傾げる。
「ちょっと幸村、つばさが困ってるでしょう。それ以上は、ナシよ!」
「はいはい。本当に桃は、如月に甘いよね」
「当然でしょう。つばさは私の親友なんですからね」
幸村の言葉に、キッパリといいきる桃子につばさは嬉しそうに礼を言う。
そんな風に、穏やかに昼を過ごす。
見詰められていた蓮二は、つばさに特段何かを言う事はなかった。
だからこそ、つばさも何も言う事なく昼食を終える。


[*prev] [next#]

[ 戻る ]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -