5.月夜の晩に

緩やかに、けれど確実に変化を遂げているつばさ。
気が付くと喉が渇いて、飲み物を手にする。
夜になると心がざわめく。
何かがおかしい。
おかしいと感じても、何がどうおかしいのかわからない。
そうして、また同じ夢を見る。
「また・・・」
何度目になるのか、分からない溜息を吐きながらもドアを開ければ。
それまでぼんやりとしていた景色が、一気に広がる。
大きな部屋には、数人の男女が睦み合っていた。
上がる嬌声。
淫らな光景に、後ろへ後ずさる。
一体、これはなんなのか。
「やっと、意識が保てるようになったか」
後ろから静かな声が聞こえる。
その声に聞き覚えがあり、驚いて振り向こうとするが。
「んっ!」
首筋をスルリと撫でられ、声が上がる。
撫でられるくすぐったさに、身を捩ろうとするが抱き締められ。
「んんっ!!」
首筋に、チクリと痛みが走る。
痛みはじわりと、甘い熱に変わって全身を駆け巡り。
それはまるで、媚薬のように身体が痺れる。
クタリと身体から力が抜けるのが、分かるが何もする事が出来ず、ただなされるがまま。
緩やかに動く手に翻弄され、自分の声ではないような。甘く高い声が上がる。
緩やかに、そして的確に与えられる熱に思考を奪われていく。
このままー………
このまま?
それは…
「ダメっ!」
叫べば、バチリと目が覚める。
夢の筈なのに、甘い熱が身体に残っているような錯覚につばさは戸惑う。
枕元に置いてあるポプリを手にして、息を吸い込めばラベンダーの香りが鼻腔を擽る。
息を吐き出し、ポプリを元の位置に置いてつばさは再びベッドに潜り込むと眠りに就く。



「逃げられた、か」
クスリと笑みを零しながら、先刻まで楽しんでいた肌の感触を思い出す。
室内を後にして、庭園に出れば夜空には月が光輝いている。
「時間はまだ、少しある」
柔らかな風に前髪が靡く。
閉ざされた瞳はゆっくりと開き、月を見上げて微笑む。
まるで、愛おしい恋人を見つめるように。

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