4.ホントは泣かないはずだった

 叩かれた頭は、痛みはない。
 むしろ、痛いのは心の方で。
 気が付いたら、つばさは両の瞳から涙を流していた。
「溜め込む事は、ない。吐き出してラクになれるなら、吐き出せ」
「ぶ、ちょう・・・・・・」
「幸いにして、ココには俺とお前しか居ない。吐き出して、肩の力が抜けるなら吐き出すがいい」
 いつの間にか、その手は優しく頭を撫でていた。
 その手の優しさに、つばさは付き合っていた男の話をポツリ、ポツリと漏らし。
 別れてから、泣いていなかった事に気が付いた。
 付き合っていたのは、好きだったからで。
 別れたのは、それがお互いのためだったから。
 愛情がなくなったワケでは、ない。
 それでも、一緒に居る事は出来なかった。一般的に、経理という職業にしては、給料が高いつばさ。
 それとは正反対に、クビを切られて無職になった恋人。
 残酷なまでに、一度転げ落ちてしまえば。堕ちるのは、あっという間の出来事。
「そうか」
「す、きだったんです」
「ああ」
「でも、もう付き合えないんです」
 例え、再び仕事をしたとしても。
 つばさの貯金のほとんどを持っていってしまった恋人。
 裏切られた。そう、思ってしまったのは仕方がないのであろう。
「次は、いい恋が出来るといいな」
「そう、ですね」
 静かな言葉は、そっと響く。
 次は、次に恋をするなら。
(柳部長、私は貴方に恋に落ちたいです)
 そっと、心の中で呟く。

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