1.残業

ほんの少し前というべきか、もう大分経つというべきか。
つばさが直近で付き合っていた男は、お金にだらしがなく。
別れる直前には、仕事を辞めて衣食住のお金をつばさに無心していた。
それがあって、別れたのだが。
以来、つばさは減ってしまった貯金を補填すべき仕事に精を出していた。
幸いにして、経理部の中でも部長補佐という有難い役職を貰っているために、仕事は多く。
自然と残業続きの日々となっていた。
「つばさ〜。今日も、残業?」
「うん、仕事があるんだ〜」
「そっか、大変だね。何か手伝える事があったら、言ってね?」
「ありがとう。お疲れ〜」
「お先〜」
同僚を見送りながらも、視線はパソコンの画面に向いたまま。
営業は5課まであるが、経理はいくつも課があるワケもなく。
少数精鋭で、仕事をこなしている。
そのために、1人が抱える案件は多く。
必然的に残業をする事がどうしても多くなってしまう。
それでも、人数を増やす事もなく不満の声も上がらないのが不思議なトコではあるが。
「柳部長、決済をお願いします」
「ああ。いつも、遅くまですまないな」
「構わないですよ〜。私、仕事が恋人ですから」
上司である部長の柳に、決裁書類を渡しながら肩を竦めて答える。
「ああ、確か。恋人に貯金を奪われたんだったか?」
「元、恋人ですよ」
「それは、失礼」
「お礼に、夜食ご馳走して下さいよ」
にっこり笑ってつばさが言えば。
苦笑を漏らしながら、「ちゃっかりしているな」と答えながらも、夜食は何がいいか聞いて来る辺りが柳の人の良さを表している。
そんな、いつもの残業の風景。

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