〜紫陽花の季節〜(番外1)

 梅雨が近くなり、雨の日が増える。
 テニス部は屋外練習から、室内練習へとシフトチェンジを余儀なくされて。
 鬱屈とした中、練習を重ねていた。
「つばさ」
「蓮二先輩、どうしたんですか?」
「今日は、部活が休みになってな」
「そうなんですか?」
「ああ。みなの士気があまり、良くないんでな」
 つばさが帰り支度をしていると、教室に姿を現したのは柳。
 雨の日は、どうしても士気が下がってしまう。と、いう事で1日オフとなった。
 そう告げて、柳はつばさと一緒に帰ろうと迎えに来た。
「雨の日って、確かにうっとおしいけど私は雰囲気があって好きだな〜」
「ほう」
「雨の匂いと空気が、好き」
「つばさらしいな」
「そう?」
 柳の差す傘に入り、並んで歩いて帰る。
 長身の柳と、小柄なつばさが一緒に入るにはどうしてもつばさが濡れてしまうのだが。
 濡れないように細心の注意を払って、柳はつばさの方へと傘を傾ける。
「蓮二先輩、私よりも先輩が濡れないようにしないと」
「いや、つばさが風邪を引いたら大変だからな」
「何を言ってるの。私よりも、蓮二先輩でしょう?テニス、出来なくなるよ。それに、私は風邪なんて、滅多に引かないから」
「しかし」
「じゃあ、私は自分で傘差す」
「分かった」
「うん、ちゃんと濡れないようにしてね?」
 にっこり笑って、柳を見上げる。
 付き合い始めた頃よりも、遥かに縮んだ距離は互いに遠慮をしなくなった。
 言いたい事は、伝えるようになり。
 互いが望むモノを、理解するようになり。
 その距離が、とても心地良かった。
「今年の蓮二先輩の誕生日は、週末だよね〜」
「ああ、そうだったな」
「6月に入って、一気に雨の日が増えたね〜。蓮二先輩が生まれた日も、雨だったのかな?」
「さて、それは親に聞いてみないと分からないな」
「それも、そうか。あ、週末は空けておいてね?お祝い、するから!」
「ああ、楽しみにしていよう」
 穏やかな会話をしながら、家路に着く。
「つばさ、寄って行くか?」
「行く!」
 柳の誘いに、元気良く答えて柳宅に招かれる。
 落ち着いた部屋は、いつ訪れても綺麗に整理されている。
 縁側から見える庭には、紫陽花が植えられている。
「私、紫陽花って好きだな〜」
「そうか」
「うん。雨の中、咲いてる紫陽花が好き」
 柳の膝の間に座り、お茶を飲みながらぼんやりと庭を眺める。
 酷く贅沢な、至福の一時。

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