3.〜今はこれが限界〜
カウンター越しで、言葉を交わす。
それだけで、充分だった。
それなのに、一体。
どうして、こんな事になったのだろうかと。
つばさは、内心首を捻るばかり。
「どうかしたのか?」
「ええっと、何故私は柳先輩とお昼を一緒にしているのでしょうか?」
柳の問いに、疑問を素直に口にする。
そう、つばさは何故か現在柳と向かい合わせに座ってお昼を共にしていた。
「ふむ。理由としては、如月の態度が気になったのでな」
「私の、態度。ですか?」
「ああ、そうだ。毎回、貸出手続きをして貰う時。顔を合わせないであろう?恥ずかしいのかと思ったが、他の者とは普通に接している。ならば、俺だけという事になるが、何か理由でもあるのかと思ってな。是非とも、聞いてみたいと思ったんだが」
静かな問いかけに、つばさは冷や汗を流す。
まさか、そんな事を聞かれるとは思ってもみなかったのだが。
素直に理由を話せるワケもなく、どうしようかと思案する。
「それとも、何か言えない理由でも?」
「悪気、はないんですよ?というか、名前知ってるんですね」
「赤也と同じクラスであろう?」
「なるほど」
名前を知られているとは思ってもみなかったつばさは、密かに心臓が痛くなっていた。
知られているとは、全く持って予想していなかったのだ。
もっとも、現在の状況も予想外ではあるが。
「如月は、結構色々と読むのか?」
「そうですね、面白いのなら読みますよ?柳先輩は、純文学がお好きみたいですね。特に、夏目漱石が」
「そうだな」
「もう、読み終わってるんですよね?ソレ。返却手続きしておきますよ?で、新しいのを借りますか?新刊、入ってますけど」
「頼んでも?」
「ええ、構いません。それが、さっきの理由になりませんか?」
「何?」
「さっきの、質問です。直接的な答えじゃないですけど、でも今のを答えにして下さい。それ以上は、聞かないで下さい」
「分かった」
図書委員という立場を利用して、優先的に貸し出しをする。
そこにある意味合いは、柳先輩が特別だから。
それが、顔を見れない理由。
私という存在を認められてしまっているのなら、もう遠慮をしても仕方がない。
それなら、迷惑にならない程度に近付けばいい。
そうつばさは考えて、提案をした。
好きだから、特別。
けれど、今はこれが限界。
「ああ、如月」
「はい?」
「良ければ、明日も一緒に昼を取らないか?」
「えっと、私とですか?」
「そうだ」
「ええっと、私で良ければ」
「なら、明日もまたココで。それでは、本を頼む」
「はい、分かりました。部活が終わる頃に、お届けに伺います」
それだけ告げて、挨拶を交わしてそれぞれ教室へ戻る。
繋がった、接点。
一体、どこに繋がって行くのかはつばさには分からなかった。
それでも、せっかくの繋がりを手放す事はしない。
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