2.〜ただすれ違うだけで嬉しい 〜

 名前を知る事は、とても簡単だった。
 図書委員として、図書室に居れば本を借りに来る姿。
 何度となく、対応をした事があるその人は1つ上の先輩。
 テニス部に所属して、レギュラーである先輩は、有名人。
 名は体をあらわす、そのままの人。
 柳の木のようにしなやかで、蓮の花のように神秘的な雰囲気の持ち主。
 柳蓮二、それが名前。
「名前は、分かっても接点ないしな〜」
 カウンターに座りながら、呟く。
 静かな室内に、人はまばら。
 特に忙しくないので、大抵は一冊本を持って来て読みながら時間を潰す。
「すまないが、返却と貸出手続きをいいだろうか?」
「あ、は〜い」
 声だけで、柳先輩と気が付く。
 この落ち着いた、低い声。
 顔を上げる事はせずに、下を向いたまま手続きを進める。
 見たくないワケじゃ、ない。
 見たいけど、自分を見られたくないのだ。
 接点は、ココにあるのに。覚えて欲しくない。
 自分という存在を、柳先輩の中に植え付けたくないのだ。
「はい、どうぞ」
「ああ、すまない」
 そう言って去って行く先輩の後ろ姿を、コッソリと眺める。
 それが、つばさの日課になっていた。
 好きだけど、とても好きだけど。
 人気のある先輩だから、彼女が居てもおかしくない。
 居ないとしても、つばさは自分が付き合えると思ってもいない。
 それなら、遠くから眺めてるだけで十分だった。
 時折、廊下ですれ違って。
 こうして、カウンター越しに言葉を交わす。
 それだけで、充分幸せで嬉しい。
 これ以上、何を望むというのだろうか?
 何も、望む事はない。
 分不相応であるのだから。
 だから、テニス姿もコートから大分離れた所から眺めるだけ。
 それで、充分幸せなのだから。
 それがつばさの幸せだった。


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