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終末の鼓動


R18G、指切断、拷問。


法正は憤怒の色一色に染め上げられていたが、それすらも顔に出ない。彼はそういう人物だった。目の前のナナシという女はボロボロに朽ち果てた木の様に、無残な姿だった。最初は綺麗な着物を纏っていたのだろう、だが、それも最初から赤い着物を着ていたかのように血で染まっていた。激しい拷問の末だった。法正は元来気性が荒く、報復と常に言葉に出して言っていたのにも関わらず、ナナシは裏切った。それが今現在の状況だった。「ええ、ええ、本当に綺麗な召し物でしたのに、顔もこんなに腫れて可哀想に……」そっと触れたかと思えばパァンと乾いた音がして、頬が紅葉色に染まった。どうしてこうなったか、事のきっかけは単純だった。



まず、ナナシは間者だった。魏から差し向けられた、間者だった。そして、法正を見張り、常に情報を仲間に教えそれを伝達し、魏に有利なように動かしていた。この間の戦は傑作だった。法正の指示全てが見透かされているかのように、相手が動いてくるもので法正は参ってしまって、あと一歩と言う所で命の灯火を掻き消されてしまう所だったのだから、肝が冷えてしまった。ナナシと言えば、合流した仲間と共に法正の軍を叩き、法正を追い詰めたのだが、援軍が来てしまいそのまま捕縛されてしまった。法正はというと全治一か月の重傷を負った。が、幸いにも命だけは落とさなかった。だが、ナナシにとっては不幸だった。仲間は全て拷問の末に皆殺しにされ、残ったのは自分だけだった。



「貴女を生かしておく利なんて無いんですよ。それ、わかっていますか?」グイと髪の毛を掴んで顔をあげさせる。「うっ」ブチブチと音がする。そのまま腹に蹴りを御見舞いすると、吹っ飛び壁に当たって気を失った。「水を持ってきてください」見張りの兵に頼むと桶一杯の水を頭から被せた。ナナシが水の冷たさにブルリと身震いをしながら見上げた。ポタポタ水滴が滴る音がする。水は若干赤い色に染まっていた。「起きましたか?貴女は俺を殺しかけたんだ。どんな報復か、まだまだ楽しませてもらいますよ、それから、色々と吐いてもらいますから。死んでもらっては困るのですよね……」「……は、吐きませんよ」



「そうですか」ニンマリ、三日月をかたどったかのような口。「貴女死にたくないでしょう。吐いたらどうですか?どいつに情報を流していたか。まだ、敵は居る筈なんですよ、俺の予想だと」そういって、思案するように己の口元に手の甲を寄せた。どちらにせよ殺されることを知っている、ナナシは黙って口を固く結んで、これからされる、もっと酷い拷問に耐えようとしていた。せめて、仲間を守りたいという気持ちだけが先行していた。「貴女の白魚の様な指、綺麗で好きでしたけど」切っちゃいますか?その言葉に、ナナシがゾッとした。「ま、待って!いう、言うから……っ!」



ナナシが声を張り上げて仲間を売ったのを見て、その後、切れ味のよい短刀で指を切断された。「ぎゃあああああああ!!」「ほら、もう何日も食べていないのだから、お食べなさい?」そう言って無理やり切断した指を口に持って行ったが嫌々、と首を横に振った。「魏には確か夏候惇とかいう武将が居て、その方は、目玉を食らったそうじゃないですか。見習わないと。親から授かった物でしょう?」ボタボタ血が止まらずまた、着物に赤いぽつぽつとした染みを作っていくが先程の水のせいで滲んで行った。「そんな、言ったのに、酷い……」「切らないとは一言も言っていませんがね」そう言って短刀を懐にしまった。



ナナシは限界だった。視界が真っ赤に染まっていく。クラクラ眩暈もしてくる、お腹は減っているが、自分の指など死んでも食えぬ。法正もそれを知っていてそれをやっているのだ。悪党を名乗るだけある。「俺は悪党ですから」「も……殺して、」震える声音でそう呟いた。だが、法正はクツクツ喉で笑うだけで、一向に止めを刺そうとはしない。「これでも、貴女の事信用していたんですよ。それを裏切るだなんて、本当貴女は愚かだ」ハッと顔をあげた時に法正の顔が少しだけ、歪んでいたのに気が付いた。法正はきっと、ナナシを本当に信用していたのだ。だから、この手ひどい裏切りが許せなかったのだ。



「そろそろ、殺してあげますよ。仲間も吐いてくれましたしね。貴女の役目は終わりです」ゆっくりと先程しまわれた、短刀を喉元に、宛てた。これで漸く全てから解放されると思うと、ナナシは何だか多幸感すら覚えてしまうのだった。瞬間、横に短刀が引かれた。ブシャリ、喉を引き裂かれたナナシは声を上げる事さえもできずに、そのままその場に頽れ、二度と起き上がることは無かった。法正の顔は寂しげにも見えた。遺体を一度一瞥したあとに、矢張り寂しげな表情で、外へ出向いた。そして、空を仰いだ。法正も血まみれだった。「俺のいけない癖ですね」そうして、パシと両頬を叩くといつもの表情に戻った。

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