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瞬きをした数だけ君を愛そう


目の前の馬岱はいつもと変わらないヘラヘラした笑みを浮かべていた。ただ、獲物を握ったまま離さないが、それだけで、変りは無いように見える。ナナシはその変りの無さに身震いをした。寒気がし、肌が泡立った。自分も獲物を持っている、いつもの使い慣れた武器ではない。粗末な、剣だった。だが、普段戦場に立っているナナシには扱えない物ではなかった。だが、この粗末な剣は何処かギザギザしていて、普段戦闘には向いていないようなものだった。そう、拷問や、いたぶるのによく使われる形状をしていたのだ。ナナシはそれを馬岱に向けるわけでも無くただ、仲間だった、人間に向けていた。仲間だった人間は皆が皆下を向き、顔が見えない。



「ささっ、俺達の仲間に成るならそんな奴らちゃちゃっと片付けちゃってよ」明るい声色はこの場には不似合いだった。ナナシが躊躇うと、何をそんなに躊躇う必要があるのさと肩を叩いた。それが怖くて怖くてその場にへなへなとへたり込んでしまった。「もう〜。ナナシってば、まだ、そいつらが仲間だと思っているの?」ナナシは慌てて否定した。「そ、そんなことは無いです、た、ただ、この様な武器で人を切るのは初めてで、凄く……」そこから言葉を紡ぐことは無かった。「俺さ、ナナシ気に入っているの!だから、こいつらと同じ運命を歩ませたくないわけ」わかる?これって、優しさなんだよ?と言う馬岱の目が座っていて、笑っていないのに気が付いていよいよ、恐怖がマックスに達した。



だが、此処で元仲間を切らねば自分の命は無いと馬岱は暗に言っているのだ。これまで何年も共にしてきた仲間、一人一人名前も憶えている。何をしたか、一緒にどれだけ過ごしたか、それが目まぐるしく、走馬灯のように頭の中をちらついた。ゆっくりと重たい腰を上げて、剣を仲間の一人に向けた。馬岱は面白いものでも見るかのように、それを俯瞰していた。「き、……切りますよ」心の中でごめんなさい、ごめんなさい、と数え切れないほどの懺悔と後悔、謝罪をしながら一人目の腕を切りつけた。ギザギザの刃は簡単には切断できなくてただ、痛みにもがき苦しんでいた。「ぐああああああああっ!!」「っ!!」「ほらほら、手が止まっているよ〜。早く殺してあげないと、可哀想でしょう」そう言って馬岱が手を添えた。のこぎりの様にギコギコとひいては押した。



やっと切断出来たころには、彼は気を失っていた。ナナシの手も震えていて、こんなに残虐な事をしているということに罪悪感を覚えていた。「目玉とか抉っちゃっていいよ?ほら、これ貸してあげる」そういって短剣を渡された。これで、馬岱を刺せたらどれだけよかっただろうか。周りには蜀の兵が囲っていてそれどころではない。逃げ場も無いただ、やれ、と命令されたから動くからくり人形の様だった。その短剣で気を失った仲間の目玉を抉った。痛みに、呻きながら起き上ると視界の片方が暗くなっていることに気が付いた男が悲鳴をあげた。「煩いなぁ、縫い付けたく成っちゃうよ」「そんなっ、」



男にとどめをせめて刺して楽にさせてやろうとすればまだだよ。と言われ、次に足を切断する。骨の軋む音がする、それすらも恐怖を煽って仕方なかった。ギギギ、と肉が削げて落ちた。痛い痛いと我を忘れて泣き叫ぶ元仲間にもう何も言葉が出てこなかった。己の命の惜しさに、仲間を売ったのだから。しかし、蜀の軍が此処まで残虐な事をしろと言うと思っていなかったので、馬岱単独の行動なのだろう。ナナシは気がついたらボロボロ涙を零していた。「あららー、泣いちゃった?怖いのかな?じゃぁ、後は俺が片付けるよぉ〜!」そう言って馬岱がナナシから、剣を取り上げた。



馬岱が太ももにそれを宛てて、のこぎりを使う要領で痛みを最大限に引き出しながら、嬲った。「ひっ……!」ナナシは悲鳴のようなものを口の中で殺してその光景を見守った。足が切断されたころにはとっくのとうに男は絶命していた。「あらら、やりすぎちゃったかなー?もう、死んじゃった?」ペチペチと頬を叩いて、確認している。そして、漸くはたくのをやめて、「死んじゃったみたいだね」と笑顔で言ったのでナナシが戦慄した。「まだだよ。まだまだ、殺さなきゃいけない人は沢山居るからね」そう言って馬岱はまた、剣を持たせた。



これは敢えてなのだ。共犯、とでも言おうか。罪を共有し合っているのだ。逃げられない枷に、震えながらナナシは武器を持った。ギィギィと骨を削る音がやけに鼓膜を震わせ、残る。嫌だなぁ、嫌だなぁ。なんでこんな事に成ったのだろう、ああ、そうだ。馬岱がナナシを気に入っているからだ。なんて単純なのだろう。なんて、残酷な人なのだろう。

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