もうすぐ卒業ではあるのだが、まだ、一応講義を取っているし大学に用事もある。今日は大学へ行く日だった。週に決まった曜日は家にいない。それは彼らもわかっていて、私がいない日は外してくれているのだと思っていたが、そうではなかったらしい。最近すっかり私の家に入り浸りとなった檸檬が朝からやってきた。驚いた顔をすると「なんだよ?」と不満そうにしていた。「ああ、いえ、」

「今日はその、今から大学に行くんですが、檸檬はどうしますか」
「どうしますかってなんだよ。俺も行っていいのかよ」
「いえ、そういうわけでなく……」

お構いできないが、家にいてくれる分にはいい。申し訳ないが帰ってもらうのも選択肢としてはあったと思う。その辺の意志を聞きたかったのだが、いや、檸檬が大学についてくる。うーん。私はわずかな時間で色々と考えを巡らせる。それはそれで。

「まあ、来て貰っても問題なさそうではありますが」

本心で言った。檸檬はにやりと笑って、私と肩を組む。

「それなら、俺も行く」



門で止められることも無く、入ってしまえばなんてことは無い。教室は広くて、俺となまえは後ろの方の席に座った。なんでも、席は毎回自由だし、この講義は大変に適当で、なんの確認もしていないらしい。「今日は確認したい気分になったらどうすんだ」「そしたら一緒に逃げましょう」なまえがさらりと言う。こいつは自分のことを一般人だと言い張るが、一般人にしては思い切りが良すぎる。そういうところだぞ、と、よく蜜柑に言われていた。
なまえは頬杖をついてぼうっとしている俺に言った。

「暇だったら、帰ってもいいですからね」
「ん」

正面に映し出される資料の文字を追いかけていると、一分と持たずに眠りそうになった。これはまずいなとなまえを見る。
なまえは、蜜柑が本を読んでいる時と同じような顔で前を見ている。集中しているんだな、と思うが、俺の視線に気付くと、首を傾げて「ん?」と微笑んだ。何やら嬉しくて飛びつきそうになるが、どうにか抑えた。
それが楽しくて何度か繰り返した後、新しい遊びを思いついた。

「なあ、ルーズリーフとペンくれ」

なまえは自分が握っているのとは違うペンと、真新しい紙を一枚俺の方に滑らせた。「はい、どうぞ」そして俺が何をするのか気になるようで、じっと俺の手元を見つめている。なんだ。なまえも退屈だったらしい。

「なあ、ほら、これ、見てみろよ」

俺がトーマス君を描くと、隣に矢印を引いた。紙をなまえに渡し、反応を待つ。なまえは「ああ」と納得したように言って、なにかを描き始める。スイカの絵だ。なまえの使っているボールペンの方が細いようで、若干細い線で次の矢印まで引かれた。カラスを描いてやる。少し意地悪だっただろうか。そう思うのも束の間、なまえは迷わずスクラフを描いてきた。器用だとは思っていたが、絵まで上手い。
トーマス君の仲間たちを含めた絵しりとりは、講義が終わるまで続いた。ちょっと白熱しすぎちゃったな、と、俺は携帯電話を見て思った。もう昼だ。



講義を終えて教室を出ると、少し開けた場所で、檸檬は体を大きく伸ばしていた。絵しりとりの紙は、檸檬が丁寧に折りたたんでポケットに仕舞っていた。

「長いんだな。大学の授業って」
「けど、今日はなんだか短かったですよ」

講義がこんなに楽しかったのははじめてかもしれない。私はもっと色々檸檬を案内したくなって、時間を確認した上で提案した。わくわくしていたので、子供みたいな顔をしていたかもしれない。

「学食行きますか?」
「あー……」

おや、と思う。檸檬だったら一も二もなく話に乗ってくれると思ったのだが。彼は私よりも随分高いところにある頭をがりがりとかいた。

「さっきから、蜜柑からの着信がやばいから、今度にするわ。めちゃめちゃ残念だけどな」

それはやばい。私は彼を学校の門の外まで押して行った。

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20210406
また蜜柑ちゃん怒るよ…
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