インターホンが二回、三回、四回と鳴った。それで大体誰が来たのかは想像出来る。玄関のドアを開けると、予想通りの人がいたので、なまえは「こんにちは」と笑った。「おう、こんにちは」檸檬は躊躇いなく入ってくるし、なまえも拒まなかった。約束、と言うほど立派なものでは無いが、昨夜「この時間は家にいるのか」と聞かれたので来るのではないかと思っていた。「今日はどうしたんですか」と聞くと、檸檬は得意気に「ふふん」と胸を張って教えてくれた。

「よくぞきいてくれたな。今日はな、おまえが何かまた珍妙な料理を作ったんじゃないかと思って見に来たんだよ」
「今日はそんなに大したものは作ってないですよ」
「あることはあるんだな」

見せろ見せろとなまえを押しのけて冷蔵庫を開けた。透明なボウルを見つけて「おっ」と声を上げる。取り出して中身を見つめるが、すぐに食べられそうなものでは無い。どう見ても生の肉だ。

「正確にはまだ途中です。食べるならいくつか包みましょうか」
「餃子か」

「餃子です」なまえは言いながら餃子の皮とスプーンを取り出して、手早く包み始めた。五個ほど並んだところで檸檬も皮を手に取り同じように餃子を作り始める。ひとつ作ると容量を得たようで、以降は綺麗に形になっていた。



また、インターホンが鳴る。一回鳴って、出ていくのに手間取っていると二回目が鳴った。「開いてるぞ」と、檸檬が代わりに返事をしたので、来客は、さっさと中に入ってくる。蜜柑は部屋に入ると、テーブルいっぱいに作られた餃子を見て顔を顰めた。

「よう蜜柑くん。遅かったな」

なまえよりも、檸檬のほうが楽しげに、次々餃子を包んでいる。蜜柑は勝手に蛇口から水を出して手を洗う。ハンカチは自分のを使っていた。

「こんにちは。すいません、すぐ出られなくて」
「こんにちは。おまえはちゃんと挨拶ができて偉いな。礼儀がなってるってのは身を助けるな。特におまえみたいな奴からにこやかに挨拶されると、気分もいい」
「むっつりかよ」

蜜柑は無視してなまえの頭をぐるぐる撫でる。犬猫にするように頭からやわらかい頬にかけてを両手で挟んでいた。すっかり髪が乱れたところで、ぱっと手を離す。

「こんなに作ってどうするんだ」
「残った分は冷凍にしておきます」

蜜柑は「なるほど」と興味深そうに頷きながら、作業に戻ったなまえの髪元に戻した。ひと房ずつ自然な流れの上に戻していく。

「蜜柑も来たことですし、少し焼きましょうか? 二人ともお昼食べました?」

「まだだ」という声は重なった。それならとなまえは立ち上がりフライパンを温め始める。適当なバットを手に取り餃子を並べる。「いくつ食べます? 十個くらい?」蜜柑が先に返事をした。

「この後仕事があるからな、そのくらいが丁度いいか」
「だな。あんまり食いすぎても動けねえ」

なまえはきょとんと二人を見つめて、それからぱっと笑い出す。今日は珍しく同じような時間に二人ともが来たなと思ったら、昼食を食べに来た訳ではなく、これは。

「待ち合わせしてたんですね」

人の家をカフェかファミレスみたいに、となまえが笑う。元々責めるつもりはなかったが、「そんな場所よりよっぽどいい」と声を揃えて言われてしまうと余計に何も言えなくなる。単純にお金がかからないからという理由な気がしなくも無いが。

「餃子の礼に、なんかいいもん買ってきてやるよ」
「ありがとうございます、期待してます」

この後なまえが「ニンニクの臭いをさせていくのも微妙ですね」と臭い消しのガムを渡すと、今度は二人共がなまえの髪をぐしゃぐしゃにしていた。なまえは擽ったそうにしながら受け入れる。

「いってらっしゃい、気をつけて」
「ああ。いってくる」
「いい子で待ってろよ。なまえちゃん」

荒くもあたたかい指先が離れていって、二人が部屋から出ていくと。なまえは自分の生活に戻った。次はなにを作ってみようか。彼らと関わるようになってから(関わってくれるようになってから)一人の生活が、とてもとても楽しくなった。


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20210309
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