「そんな顔をさせるつもりじゃなかったんだが」

難しいものだな。槿は顔に影を落としてしょんぼりと言った。私は慌てて口の中に入っていたアイスと生クリームの混ざったものを飲み込む。

「お、美味しいよ」
「気を使わなくていい」
「いや、気を使っているとかではなく」
「俺が勝手にやって、勝手に、うまくいかなくて残念がってるだけだ。悪いな」

上手くいってないことはない。ちょっと驚いただけで。槿にカフェに連れてきてもらえるとは思ってなかったし、奢ってもらえるとも思ってなかった。こんな場所に誘うからには何か話しがあるのかと思えば、ただ、私の調子が悪そうだから息抜きに、と槿は話してくれて、本当に、びっくりしただけだ。『ただの気使い』あるいは、『見たままの厚意』だろうか。そういうものを、この押し屋の男から受けたことに驚いている。

「てっきり仕事の話と思ったから、ごめん」
「俺が遊びに誘うのはそんなに意外か」
「押し屋に遊びに誘われたなんて話、聞いたことないよ」
「俺だって遊ぶことはある。人間だからな」

私は「そうみたいだね」と笑って(今度のはいくらか楽しそうに笑えたはず)、パフェグラスの中身を全て食べ終えた。本当に美味しかった。よくもまあこんな店を知っていたものだ。桃あたりからわざわざ情報を買ったりしていそうだな。そう考えると、普通であればかわいいと思うのかもしれないが。

「……」

やはり、何か、裏があるのでは。探るような表情をしてしまったせいで、槿は再び居心地が悪そうにため息をついた。

「本当に、困らせる気はなかった」
「ああ、ごめん、悪い癖だね。ごちそうさま。パフェ、美味しかった。ーー本当に他に話はないんだね?」
「話さなければいけないことはない」
「ふうん? じゃあ私帰る……」

帰り、ます、けど。槿は「そうか」とは言うものの見たことがないくらい残念そうにしている。やはりなにかあるのでは。最後にもう一度だけ聞いておこう。

「……本当に、なにもない? 私にパフェ奢ってくれただけ?」
「ああ。ただ、笑っているところが見たかっただけだ」

困らせただけだったようだが。槿は相変わらず残念そうに暗い雰囲気を纏っていて、私はどう解釈していいかわからず困り果てた。どう解釈したって困ることにはなる。なるがーー、思っていたより槿に気に入られている、ということだけははっきりわかった。


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20210530
話さなければいけないことはないが話したいことはあるし彼女の話を聞きたいとも思っている話
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