人混みの中にあって、頭一つ抜け出ている二人。二人揃っていると見つけやすくてありがたい。いつもは、それぞれが好きなことをして待っている。蜜柑は小説を読んでいるし、檸檬は行き交う車なんかを眺めている。が、今日は違った。
二人の目の前にいる、二人の女性を見つめている。蜜柑と檸檬は無表情で、仕事の段取りでも聞くような、興味があるともないともわからない顔で、その女性二人の話を聞いていた。私の位置からでは後ろ姿しか見えないが、女性の服装から、彼女達の自信が滲み出ている。
同業者だろうか。もしそうなら、私は彼らの用事が住むまで待っていた方がいいだろう。やや距離を開けたところでぼんやりしていると、不意に檸檬がこちらに気付いた。私が(十五分の遅刻を経てようやく)待ち合わせ場所に現れたことを、すぐ蜜柑にも教えている。気を使わせたら悪いな。
檸檬と蜜柑は顔を見合わせてにやりと笑った。悪いことを考えている顔だ。檸檬は大きく手を振って「なまえ!」と私の名前を呼んだ。女性二人は同業者かもと思ったが違うようだ。同業者ならこの軽率さはあり得ない。
呼ばれたので、近くへ行く。
檸檬の視線の先、私に、二人の女性の視線が刺さる。私を見るなりぎょっとして、悔しそうに顔を歪めた。その顔を蜜柑が見ている気配がある。彼は静かに息を吐いた。小さく何か言ったようだが、口元が小説本で隠されているので聞こえなかった。

「ほら、さっさとこっち来い」

「ちょっと、」とは二人の女性の言葉だ。檸檬は聞こえていないフリで女性二人を押しのけて私の腕を掴んだ。「わっ」ぐっと引っ張られて遅刻を謝るタイミングを見失う。
檸檬はそのまま私と腕を絡めて、蜜柑は私の腰に指を引っ掛けて私は二人の間に押し込められた。圧迫感。そして、蜜柑と檸檬の影が落ちて来る。

「なっ」

驚いて声をあげたのは二人の女性だ。そんなにしかめっ面をしていては綺麗にのせてあるファンデーションが崩れそうだ。折角整った顔なのに。ところで私は一体どうして蜜柑と檸檬に挟まれて、左右の頬にそれぞれキスをされてしまったのだろうか。「悪いけどな」檸檬が言う。

「俺達、此奴しか可愛がれねぇから」

私はそこでようやく何故引き留められていたのか見当がついた。

「蜜柑さん、ナンパされてたんですか」
「女からだから、逆ナンだ」
「すごい」
「すごくはねえよ。それよりおまえな。おまえが遅刻してきたせいであんな奴らに絡まれたんだぜ。トップ・ハム・ハット卿風に言えば『混乱と遅れが生じたぞ』だ。どうしてくれんだ?」
「ごめん。今度、パフェとか奢る」
「まあ、奢られてやるけどな」
「俺は別に怒ってないが」
「蜜柑は優しい」
「あっ、おい、ここで裏切る意味がわからねえよ。いいか。そんなこと言ったって好感度的にはそう変わらねえんだからな。そうだろ?」

ただでさえ目立つ二人の間にぎゅうぎゅうと挟まれて歩く。女性二人は何か言いたそうにしていたが、私達に構うのが馬鹿らしくなったのか、諦めたように肩を落としていた。そうやってしおらしくしている方が可愛いので、きっと、今にも彼女達をナンパする男の人が現れることだろう。
あのレベルの人たちならば引く手あまたなのではないか。うーん。それにしても。

「私もナンパされてみたいな」
「おまえはされたことあるよ」
「え、誰に?」
「俺達」

蜜柑と檸檬は声を揃えて言った。そうか。あれがナンパだったのか。


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20210529:あめさんにリクエスト頂きました『逆ナンされちゃった れもんさんとみかんさんが、夢主さんの腕つかんで「俺達、此奴しか可愛がれねぇから」って言っちゃう話』でした!!!ありがとうございました!
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