事前に連絡をくれることもあるが、たいていの場合は神出鬼没に現れる。とは言っても、初めて会ってから今日まで、どんどん遊びに来る頻度が高くなっているので、そろそろ鍵を渡すべきなのではとさえ思う。
「よう」恐らく家に居なかったからだろう。わざわざ駅で待っていてくれたらしい蜜柑は私と目が合うと、体を真っ直ぐ私の方に向けて立った。すぐに駆け寄り、通行人の邪魔にならないよう壁に寄った。

「すいません、もしかして、家に来ましたか?」
「ああ。お前はいなかったが」
「珍しく遊びに行ってて」
「一人でか?」
「はい。そういう時ってありませんか。フラフラ、適当なもの見たり買ったり」
「そういう割に荷物が少ないな」

蜜柑は私が唯一持っている紙袋を取り上げて(中身を確認されることはなかった、檸檬ならたぶんしている)、「今から帰るんだろう?」家に向かって歩き出そうとしていた。「あー……」ちらり、と、腕時計で時間を見る。「ごめんなさい」

「私、このままバイトで」
「……そうか。なら、バイト先まで送ろう」

表情が大きく変わることは無いが明らかに気落ちした様子に申し訳なくなる。

「すいません、せっかく来てもらったのに」
「いいや、ちゃんと予定を聞いておくんだったな」

「急ぐのか」蜜柑がそう聞くので「そこまでは」と簡単に答えた。正確には三十分くらいは余裕がある。「そうか」そのまま歩き出すのかと思ったが、蜜柑は私を更に壁際に追いやって壁に背を付かせる。顔の横に緩く手が置かれた。「なまえ」なんだかとてもしっとりした声で名前を呼ばれたので「はい」とかしこまった返事をしてしまう。またなにか悪いことを考えている、ような。

「これだけ近いとキスしたくならないか」
「へっ?」

「冗談だ」ああ、冗談。私が油断したところで、蜜柑はぐっと顔を近付けて私の左目の真下くらいに唇を寄せた。ちゅ、と音がする。どこも冗談ではなかった。慌てて顔を押さえると、蜜柑は可笑しそうに笑って体を戻した。

「終わるのは何時だ?」
「十二時くらいです……」
「わかった」

蜜柑は帰りも迎えに来て、帰宅した私の世話を焼けるだけ焼くと、とてもとても満足そうにしていた。そして、当然のように一緒に眠った。


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20210408みかんちゃん…
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