はじめまして恋心03


新しく機関員として仲間になったヴァルカンとはすぐに仲良くなったのだけれど、彼は新しいメカが完成する度に私を呼びつけて言う。

「物理耐久テストに付き合ってくれ!」
「いいよー」

新しいものを見られるのもこの怪力の使い道を見出してくれるのも大変に嬉しくて二つ返事でオーケーし、手伝うことが多いのだけれど、だけれど、だ。

「お、今日もやってるっすねえ」
「!!!?!」
「リヒトか! ちょうどいいとこに来たな! 新作の耐久テスト見ていけよ!」
「そうさせてもらおうかな。今度はなにを作ったんすか?」
「!?!?!」
「おう、今回は……、ん? どうした、なまえ。青い顔して」
「え、ああ、いや、えーっと、なんでもない」
「そうか? じゃあいつも通り頼むな!」

何が悲しくて一目惚れした相手に一番女らしくない部分を見られなくてはならないのか、私はこの日涙を飲み込みながらヴァルカンのメカの物理耐久テストを手伝った……。



三歳の時、家の玄関を歪ませたらしい。
らしい、と言うのはもちろん私にその記憶がないからだ。ただ、両親は、その時、娘はどうやらどこかおかしいと気付いて、その二年後には灰島の施設に放り込まれた。私に炎の能力は発現しなかったが、今日までずっと出力の限界値は上昇し続け、筋力がヤバイという特技のみで特殊消防官となった。実際、瓦礫を退かしたりするときなんかは重宝されている。瓦礫というか、多分、やろうと思えば一軒家丸ごとでも動かせるのではないだろうか。
十歳かそのあたりまではよく身の回りモノをぶっ壊したものだが、今ではそんなこともなくなった。ただ、初見の細かい作業は苦手だけれど、力加減を間違うということはほとんどない。
のだが。
デコピンで電柱をへし折るような女には誰しも近付きたくはないだろう。と、私は自分のおかしさについて冷静に把握し、極力一人でいるようにした。
もちろん、手伝えることは手伝ったし、困っている人がいれば助けることもあったけれど、およそ友達、と呼べるような同期はアーサーとシンラと、オグンくらいだったのではないだろうか。……、ただ、どうしてかバレンタインやクリスマス、誕生日なんかはよく贈り物を貰ったし、いろんな人から告白をされてはいたけれど。
万が一、ということがある。
いくら制御ができるようになったとはいえ、うっかりで人を殺せてしまえると思うとそうそう人の近くに寄っていくことはできなかった。

(けど、ここなら、役に立てる)

あまり、気に入ってはいないが、上手く使えば人をたすけることができる力だ。第七の大隊長も「……よくそこまで精度を上げたもんだ」と褒めてくれた。もっと精度を上げるためのアドバイスをくれたし、まだまだ伸びしろはあるはず。
腕力に罪はない。

(とは、言っても、なあ)

こんな気持ちになるとは思わなかった。
屋上で深く呼吸を整えながら、自分の心の変化にそっと触れる。
人に好かれたい、特に、異性に好かれたいと思った時、こんなにもこの力が疎ましくなるとは。およそ人間ではないレベルの怪力の女、というだけで恋愛対象にならなそうだと気付くと、結構な精神ダメージが入って来た。
いや、欠点、とは思わないが。リヒトさんに好かれたいと思ったとき、リヒトさんがどう思うかによって変化する。……まさか、片手で二トントラックを押せる女をどう思いますかなんて聞けるはずはない。
……聞く? いや、無理無理聞けない。

「あれ。なまえさん」
「うわあああああ!!?」
「そ、そんなにびっくりしなくても」
「あああああおはようございます!!!!」
「おはよう……」

驚きと嬉しさとで思わず屋上で転げまわりそうになる。
その衝動をぐっと押さえて立ち上がり、改めてリヒトさんを見る。今日も背が高い。寝ぐせなんだかくせ毛なんだかわからない頭してる……。うぐぐかわいい……、恋という状態異常にはまだまだ慣れない。

「すいません……、取り乱して……、改めまして、おはようございます」
「おはよう。今やってたのって、新門大隊長に教えて貰ってた呼吸かい?」
「はい。なんでも、もっと気の流れを意識したら私の怪力制御も更に幅ができるんだとか」
「更に幅が? へえ……」

リヒトさんは私の近くに立って、じっと、私の腕のあたりを見ている。……。あれ。もしかして、これ、私が普通の女の子だったら起こっていないイベントなのでは。普通の女の子の上腕二頭筋は普通の女の子の上腕二頭筋なわけだから、なにも不思議はないわけで。ひょっとして筋肉に興味が? いや、私のこれは筋肉と言うか、体のバグというような……。いまだかつてない距離感に私はつい動揺して数歩下がってしまった。

「大丈夫ですか?」
「? なにがだい?」
「あんまりその、私の腕とか足とかが届く範囲にいるの、怖くありませんか?」
「え?」

さら、とやや肌寒い風が私とリヒトさんの間を通り過ぎていく。
ああ、とリヒトさんは軽い調子で言った。「大丈夫だよ」大丈夫……?

「こんなんでも科学者だからね、もっと危ないものはいっぱい知ってるよ。君はいきなり爆発したり近付いたからって死に至ったりしないわけだから。どこが危険なのか教えて欲しいくらいさ」

聞くんじゃなかったかもしれない。

「そういうものですか」
「少なくとも、僕はそう思うけど」
「そうですか……」

……なんで好意の度合いを表現する言葉は、好きか大好きくらいしかないのだろう。もうだめだこの人のことが好きすぎる。

「今の、すごく嬉しかったので、リヒトさんももし何か重いもの買い出しに行く時とかあれば私を使ってやってくださいね。喜んで荷物持ちします」
「お、本当かい? 助かるなあ。実は今日灰島から持ってきたいものがあってさ。手伝ってもらえる? あ、流石に急すぎるかな」

聞いてよかった。恋をすると主義主張が簡単にひっくり返るものなんだなあ。
私は「大丈夫です」と当然、応えた。よっしゃ。


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20191208:よっしゃ。


 

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