ケッカオーライ/カリム


そういうのではない、と言い聞かせる。いや、そういうのだろ、とすぐさま自分からツッコミが入る。その通り。そういうのだ。下心はあるし、気を引こうとしての行動だ。あまりに浅はかで、いっそ笑えてしまう程に。
自分の指には入らない、カリムフラムは、小さなリングを太陽に透かせながら考える。考えるのは、彼女のことだ。新人として第一に配属され、カリムの直属の部下としてカリム中隊で働く二等消防官。なまえみょうじ。
彼女の誕生日が近いという話を小耳に挟んだ。
タマキの盗撮犯を吊るしあげてから隊の内外問わず人気が出て来たなまえの情報は、そこかしこで聞くことができる。
上司として、部下に祝いの品を贈るのはまあいいだろう。しかし、勇んで買い物に出て、帰って来た時握り込まれていたのはこのピンキーリングだった。一目見て、なまえが気に入るのではと思い、即決してしまった。
してしまった、と言うからには後悔しているわけだ。
すなわち、指輪は、軽いプレゼントにはなり得ないのでは、と。

「……やっぱり、渡せねェ、か」

烈火は「いけ! やれ!! 当たって砕けろおおおおおお!!!」と叫んでいた。砕けたくはない。フォイェンも「案外大丈夫かもしれないよ」などと楽観的なことを言っていたし、いっそ本当に渡してしまってもいいのかもしれない。いいや。しかし。

「どうしたんです、それ」
「っ!!!?!」

ひょい、と渦中の女が突然横から顔を出す。
誰もいないと思って気を抜いていた。
ぼうっと指輪を太陽にかざしていれば、どうしたんですか、という話にもなる。

「すいません、そんなに驚かれるとは……」
「いや、いい……。何か、用か伝言でもあるのか」
「いいえ。散歩してたらカリム中隊長を見かけたものでご挨拶をと……」
「そうか」

あまりにもカリムが驚くものだから、これはタイミングが悪かったようだとなまえはそっと数歩引く。「では、これで」と離れようとするなまえの修道服が翻る。
その裾を、ぱし、と掴んでしまって、お互いに顔を見合わせた。「え」

「あー……」

恐らく、タイミングはここしかない。引き留めてしまってから、引き留めた理由を全速力で作り上げていく。いいや、作らなくてもいくらだってあるのだけれど、もっともらしく、この手の中のものを渡すに適した理由を組み上げる。「なまえ、」「はい」

「お前、こういう、装飾品みてーなアクセサリーは好きか?」

あくまで自然にそう切り出す。
なまえはカリムの傍に戻り、カリムの持つ指輪をまじまじと眺める。

「ピンキーリングですか? あんまりごちゃごちゃしたのは好きじゃないですけど、これはかわいいと思います」
「本当の本当に本心の本音でそう言ってるか?」
「言ってます……、と言うか主観の話でいいですよね? 私はそれかわいいと思いますし、そういうのなら好きですよ。残念ながら世間一般の流行り廃りから見てどうかっていうのは、私にはわかりません」
「いや、いいんだ。俺はなまえ自身の主観を聞いてるで間違いねェ」
「ですか? なら、そう言う感じです」

これならば、好き、だと、なまえは確かに言った。
このままだと、話の流れで誰かへのプレゼントですか、という話になるだろう。なまえが口を開くよりも早く、カリムはぐ、となまえの手に指輪を握らせる。「なら、お前にやる」

「……えっ、誰かへのプレゼントでは?」
「いや。それはこの前の先日冷却管のパーツを新調しに買いに行った時、馴染みの店のオヤジに無理矢理持たされたモンだ。知っての通り送る先もないからな。もし嫌いじゃないなら貰ってくれるとありがたいんだが」
「ああ……、そういう……、ことなら……」

なまえはじっとカリムから受け取った指輪を見詰めて、その内「付けてみても?」とカリムを見上げた。「もうお前のモンだからな、好きにしてくれ」「ありがとうございます」と、色々複雑かつストレートな気持ちの籠った贈り物は、なまえの左手の小指に綺麗にはまった。まるではじめからそこにあったようにピタリと止まる。簡単に落ちてしまうこともなさそうだ。
やや意味合いが弱くなってしまうが、渡すことには成功した。
カリムがなまえに知られないようにほっと息を吐いていると、なまえは「実は」とやや照れながら言う。

「……実は明日、誕生日なんです。ありがとうございます」
「そうなのか。なら、明日は明日で、ケーキでも買って奢ってやるよ」

に、と笑うなまえに、カリムも笑顔を返す。
知っている、とは言えない。言う事もあるかもしれないが、まだ今ではない。

「本当ですか。言ってみるもんですね」

明日の約束も取り付けられたし、これはこれ、だ。


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20191207:文字書きワーードパレット弐のやつです。
11.フラメント 「小指 贈り物 止まる」うさぎさんから頂きました。


 

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