手土産なんて最後でいい/紅丸


「おやなまえちゃん。今から紅ちゃんとこかい? ならこれを持っておいき」「ありがと」「言う必要ないかもしれないけど、仲良くね」「うん」という訳で、浅草の街を歩いていたら、瓶に入ったリンゴジュースを受け取った。ダースでおすそわけをもらったからと、一リットル入りのビンを六本頂き、私は貰った六本を両手に抱えて詰所にやって来た。正直重い。

「紅、紅丸―?」

開けられないから叫んでいると、近くにいた親切な住民が扉を開けてくれた。「ありがと」と笑うと「いいってことよ」と笑い返してくれた。声に気付いた紅丸も玄関まで出てきてくれていて、私の姿を見るなり呆れたように息を吐いた。私はにっこり笑ってやる。

「これ半分持って」
「……物、貰ってくるにしても、もっと考えて貰ってこねえか」
「まあまあ。置いてあればみんな飲むでしょう」
「ったく」

しかたねえな。と紅丸は言うのだが、持ってくれる気配はない。代わりに、ゆるゆると顔を寄せられ、瞼のあたりにキスされた。……、玄関に、他の人間はいないけれど、流石に、照れる。
私達は幼馴染として今日の日までほとんど一緒に育ってきたのだけれど、いつだか、恋だとか愛だとかを意識し始めた時、お前の迫力ならば言い寄られることも減るだろう、と紅丸が言った。で、その程度の理由ならば気楽だと付き合い始めた。……と言う、それは、まあ付き合いたての頃の気持ちで、紅もまた、言葉とは裏腹にかなり本気の告白であったらしく、今となっては私達は割合に本気でこの関係を大切にしている。
だから、こういうことが不自然というわけではないのだけれど。

「あの、持ってって」
「ああ、わかってる」

ちょっと忙しくて長く顔を見せていなかったからだろう。紅丸はリンゴジュースのビンごと私を抱き上げて、自室へと歩き出す。「いやあの、隊の士気に……」「見られるようなヘマはしねェ」「……ああ、そう……?」こうなってはこちらの言い分が聞き入れられることはない。私は素直に紅丸に寄り掛かって、腹にリンゴジュースを抱えていた。なんだこれは。

「バカみてェだな」
「私達今セットだから揃ってバカみてェだよ」
「は、それもそうか」
「……」

今は抜けているようだが、昼から酒でも煽ったのだろうか。紅丸は嫌に上機嫌で自室の扉をがらりと開ける。本当に誰とも擦れ違わなかったし、紺炉さんもヒナ・ヒカもいないようだ。……いいや、ひょっとして……? 今詰所には、私達以外いないのでは?
私は紅丸が敷きっぱなしにしていたらしい布団の上に座らされて、相変わらず自由にならない腕では抵抗もできず、再びされるがままにキスをされた。今度は唇のすぐ横だ。流れで肩を押されるが、以前私はビンを六本抱えていて……っていい加減いいだろうこれは。押し倒された私と紅との間でかあんとガラスがぶつかる音がした。なにやってんだか。私と紅は同じタイミングで空気が抜けたみたいに笑った。

「……やっぱりこれ、紅も相当バカみたいだよ」

私は床が近くなったから、ビンを一本ずつ布団の外へ立てていく。全部除けたら、自由になった手で紅丸の髪に触れる。泣きたくなるくらいさらさらしていて、簡単に指の間を滑っていく。紅丸の綺麗なところに気付くと、ひどく胸が苦しくなる。この気持ちと一生付き合っていかなければならないと知った時には絶望したものだけれど、どうやらそれは紅丸も同じらしいと気付いた日、やや楽になった。「今更だ」遠慮する気も、止まる気もない声がまた近くなる。

「俺がバカなのは、お前が一番よく知ってんだろ」

そんな風に信頼されては、文句の一つも言えやしない。


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20191015:普通にいちゃつかせたかったなどと供述しており
ligamentさまからお題お借りしました。お題【リンゴジュース】)


 

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