はじめまして恋心01


人間は、場所が変わったくらいじゃ変わらないものだなあ、と森羅日下部はアーサー・ボイルと並んで、第八特殊消防協会の前に呼び出された同期を見ていた。
訓練校時代から伸ばし続けている髪を見てもわかるように、なまえみょうじは女なのだけれど(体つきもまあ、結構イイモノを持っている)訓練校時代から、誰よりも女子にモテる女であった。
今日もまた、告白されているのだろう。聞かなくてもわかる。相手の女子は「好きです」なんて頭を下げて、なまえは律儀に「ごめんね」と謝る。初回は戸惑ったらしいが、あまりにも彼女達が真剣そのものなので、なまえもどんどん真剣に受け止め、そして真剣に断るようになっていった。
なまえは、突然、名前も顔も知らないような女子に告白されて付き合ったりはしないのだけれど、シンラの隣でなまえを見つめるアーサーはどこか落ち着かない、不安そうな様子だ。訓練校時代に「今回は相手の女の子もめちゃめちゃ可愛いし付き合うかもな」とからかったことがあるのだが、両肩を掴まれ「そんなはずないよな? ないだろ? おい?」と泣きそうになっていたのでもうシンラがこの件をからかうことはない。
変わりに「そろそろ本気ださないとやばいんじゃねえの」と助言をした。
アーサーは、ばっとシンラの方を見る。「まさか」がし、と両肩を掴み思い切り前後に揺らす。

「おい、やめろって!」
「まさか! ……え、っと、なんだ……? まさかなのか……?!」
「頭の悪い詰め寄り方も肩を掴むのもやめろ!」

「まだ大丈夫だから落ち着け!」とシンラがアーサーを引きはがしたところで、ふらり、と白衣の男が現れた。

「おや? 相変わらず仲良しっすね〜」

アーサーは涙を引っ込めて、何か言い返したい様子だったが、ヴィクトル・リヒトの足先から頭までをじっと見た後黙り込んでしまった。シンラはまた溜息を吐いた。



真剣、全力で「好きです」と言う女の子たちの気持ちを、今までなんとなく尊くて、きらきらしていて、必死で、この行為は爽やかな勇気でもって行われているのだと、想像だけで考えていた。
しかし今は、あまりにも真っすぐな気持ちに触れると涙が出そうになる。
例えば、今、自分の抱えている想いを、伝える……、いいやそんなことは考えるだけで立っていられなくなりそうだ。こんなことを、彼女たちは玉砕すら覚悟して私に向けている、なんて……。「ごめんね」と言う私は彼女達を尊敬している。
だから最近、告白されると思い出すのは、浅草から帰った日のことだ。
その日、私は人生ではじめて恋をした。
なんだか不穏な雰囲気ではあったけど、私は、両目から一枚膜が剥がれ落ちるような感覚がして慌てて瞬きをした。今まで世界は曇っていたのか? ぱち、ぱち、と何度見ても、いいや、見れば見る程に、ぎっ、と胸を掴まれるような感覚に陥る。思わず、胸を手で押さえる。アーサーが「どうした? 風邪か?」などと聞いて来たが返事をする余裕がない。
高い身長だろうか。無邪気そうなくせ毛だろうか。感情の読めない目かもしれないし、人を寄せ付けないような悪い笑顔かもしれない。白衣なのか、如何にもと言う風の横じまのシャツなのか、今まで周りにはいなかった細い体の可能性もある。
私の耳は、この人の声を一つも逃さないように、きっとこの時、傾いていた。

「この度、第八特殊消防官隊科学捜査班に配属されちゃいました」

ひゅ、と息が止まる。「おい?」アーサーの声が遠くなって。
心臓が何か叫んでいる。

「ヴィクトル・リヒトっす」

私は、このひとが大好きだ。


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20191202:はじめました。応援頂けたら応援頂きたいです…。

 

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