残り時間を教えてよ/リヒト


僕から(売れっ子であり有名人である)なまえに会いに行くことはほぼ出来ない。その為、会う時は大抵なまえがふらりと僕の部屋にやってくる。
消防隊になってからはそれも難しく、お互い寂しい思いをしていたのだけれど、ここは流石なまえで。最近は特殊消防隊絡みのイベントにゲストとして出演。手助けをする仕事をよく引き受け、各隊の教会を割合に自由に出入りするようになってしまった。(同じ理由で灰島も顔パスだ)特に僕のいる第八は贔屓しているから、今のところ、なまえは何不自由なく第八特殊消防協会に遊びに来たりしている。
と言っても、忙しい彼女が来るのは週に一度とか、二週間に一度とか一月に一度とかそのくらいだ。今のところそれ以上空いたことはないが、一緒にいられる時間もまちまちで、一晩一緒にとなると、レア中のレアだ。
そんななまえが、今日もふらりと手土産を持って現れた。

「……忙しそうだね」
「んん、ちょっとね。その辺で適当に待ってて」

すぐ片付けるから、と言って三十分程が経過した。なまえは本当に部屋の隅で大人しく雑誌を読んでいて僕の邪魔にならないようにしている。
本当は急ぎの用など無いので近くへ行きたいのだけれど、僕の事をちらちら見てくる視線が心地好くてそのままにしてしまっていた。彼女は僕の真面目な顔が好きとも言ったし、何度か惚れ直してくれていたらいいとさえ思う。
いっそ得意気でさえあったのだが、ふと、なまえが、がさがさと動き出す気配を察知して振り返る。
立ち上がって、荷物を肩にかけていた。あれ。これはまさか。僕は慌てて、間抜けな声で聞いてしまう。

「えっ、帰るの?」

なまえは涼し気な目元をゆるりと細めて残念そうに言う。あああ、彼女にこんなに寂しそうな顔をさせている奴は誰だ!? 僕か……。

「うーん。もうそろそろ出ないと次の撮影が……」
「ええっ!?」

これは…格好つけて仕事なんてしてる場合じゃないぞ! と、今更思う。

「もうそろそろって、もう今すぐってこと? 一秒たりとも余裕はない?」
「三分くらいはまだ大丈夫だけど、半端だし、今日は忙しそうだしすぐに、」
「待って待って待って!」
「んむ、」

ムードも何も無く、なまえを貧弱な腕の中に閉じ込める。
三分と言うと、百八十秒だ。頭で数を数え始める。このまま、彼女を待たせただけで帰す訳にはいかない。この三十分は彼女の努力の賜物なのだ。全く誰だ、彼女の努力を踏みにじるような事をしたのは…!? 僕か……。
ええいともかく時間が無い。

「帰る前にちゃんと僕といちゃいちゃしていってよ……」

なまえは僕の胸の辺りで顔を上げて、普段カメラの前では見せない無邪気な笑顔で頷いた。

「ふふ、うん」

しかし百八十秒では全く足らず、手を繋いで駅まで送って行った。


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20191201:リヒトくんかわいいかわいい…。(いつもの)

 

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