006/リヒト、ジョーカー


なまえは僕の読み通り第八の面々と大変に仲良くやっている。朝はシスターと祈ったり、その後、外の一角を借りて桜備大隊長と花壇を作ったりしている。耕した段階では誰も見物人はいなかったのだが、芽が出て葉が付くのを、シンラくんが眺め、アーサーくんが加わり、今では皆楽しみにしている。
なまえもまた、育てている花の様子を写真に撮ったりして……。

「楽しくやってるみたいだな」
「それなりにね。どう? 寂しくなってきた?」
「馬鹿言え、いつも変な虫が付かないか気が気じゃねェよ」
「はは、まあ、今のところはそんな感じじゃないよ。みんな妹か子供でも面倒見るみたいな感じ」
「大方の予想通りだな」
「安心した?」
「いやあ、全然」

なまえが撮り溜めた写真を見終わったのだろう。ジョーカーは僕になまえのカメラを返してくれた。そして「あいつに自撮りって言葉教えといてくれ」と真面目な顔で言われた。そういうと思って僕はちゃんと最近のなまえの写真も撮ってある。
ヴァルカン襲撃事件で出来た、アンカーの穴の写真を撮り終わると、ポケットから数枚写真を渡した。花壇を眺める写真と、大量の餃子を作って引かれている写真と、研究室の隅で丸くなって寝ている写真。ジョーカーは安心したように、ふ、と小さく笑った。

「今はどうしてんだ?」
「修行の付き添いって名目で浅草見学だって。いろいろ見た方が彼女の為になるだろうってね」
「浅草ねえ……」

僕としては、シンラくんとアーサーくんが居ればそうそうおかしなことにはならないと思っている。普通に見学して、土産でも買って帰って来るのだろう。僕も後で行くし、万が一何か問題が起こっていれば回収して第八に戻ればいい。

「あ、あとこれ。なまえから」

忘れるところだった。ジョーカーに小さなビンを渡す、入っているのは赤い結晶がいくつかだ。

「……なんだこりゃ」

なまえに時々「どう過ごすべきか」「どう接するべきか」と聞かれるが、僕はその問い全てに「好きなようにしたらいいよ」と答えている。その結果、僕の助手兼用心棒として、読書趣味は今まで通りだが、戦う方法もいくつかあったほうが良いと思うようになったらしく、火縄中隊長や、マキ隊員に炎の操作方法なんかの助言を貰ったりもしているようだ。ヴァルカンに力の使い道、応用方法等を相談している姿も見かける。

「最近自分の能力についてこっそりいろいろ試してるみたいでさ。それは成果物なんだって」
「あいつの能力っつったって、てめえの血と、暗部仕込みの戦闘術くらいしかねェだろ」
「それがさ。どうにもなまえは、血液中の熱エネルギーを操作することもできるみたいなんだよね」
「……そうすると、あいつが異様に打たれ強いのも、デカい傷が即効で塞がってたのも納得いくな」
「そうそう。で、まだまだ修行中ではあるけど、理論上は自分の血液を、それこそ炎みたいに操れるんじゃないかって」

なるほど、とジョーカーは言うが、あまり良い顔はしていない。
当然だ、血を操るということは、体内から血液を出すということだ。ビンの中の紅い結晶もなまえの血である。

「で、僕も彼女の実験を手伝ってみたら、その結晶、炎に触れると、その炎の威力を大きくする力があるってこともわかったんだ。体に入れるのはオススメしないけど、何か使い道があるかも、ってさ」
「……」
「近い内に会いに行ってあげたら? きっと彼女、自分からは言い出さないよ」

そうするかな、とジョーカーはどこかへ行ってしまった。
さて、僕も一度研究室に戻って、それからシンラくんのパワーアップについて考えて、浅草に行って、必要ならばなまえを回収しなければ。解析は手伝ってもらおうかどうしようか。いやまずは第七の皆様とははじめましてなわけだし、いい感じの挨拶文でも考えて……。
僕がふらりと第七特殊消防隊の詰所に顔を出した時、既に事件は起きていた。

「り、りひとくん……!」

一目散に白衣の中に潜り込むなまえと、そんななまえ(いや、僕?)を睨み付ける新門大隊長。
え、な、「ど、どうしたの?」「……あの、リヒトくん」「うん」科学者の僕がこんなことを言うのもなんだが、大変に嫌な予感がする。

「『簪を受け取る』ってどういう意味ですか……?」

こ、これはただ事じゃないぞ……。


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20191128:これは原作沿い…。

 

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