005/アイリス


リヒトさんに保護されていたというその女の人は、まるで小さな子供のように笑う人でした。

「あれ、なまえさん……?」
「あ、おはようございます。シスターさん」
「おはようございます。どうしたんですか、こんな朝から」

礼拝堂にふらりと現れて、居場所を探すようにきょろきょろとしていたので声をかけると、私に気付いて隣へ来てくれました。近すぎず遠すぎず、そんな距離感で、なまえさんは笑っています。

「お祈り、って、私もここでしていいんでしょうか」
「え、お祈り?」
「あ、だ、ダメ?」

年下の私に、そんな風に聞くなまえさんに、私は慌てて首を振ります。

「い、いえっ! もちろん、いつでもここでお祈りして行って下さい! 太陽神様もお喜びになられますよ!」
「……ありがとうございます」

なまえさんは、きゅ、と胸から下がっている欠片のネックレスを握りしめて(今は離れ離れの好きな人からもらったんですって、ロマンチックですよね)、そっと座り、祈りの言葉を捧げていました。慣れている様子です。リヒトさんもああ見えて信心深いのでしょうか。そんな風には見えませんけど。
私も隣に座って一緒にお祈りをします。
この日から、これは私達の日課になって、シスターの私はもちろんとしても、なまえさんも欠かさず毎日やってきて、「おはようございます」と挨拶をします。そして隣同士で太陽神様に祈ります。
祈りが終わると、私達はこっそり女の子だけのお話をします。ある日、熱心に祈るなまえさんの顔を盗み見ると、眉が寄り、とても情感が乗っているようでした。つ、と涙が一滴落ちて、思わず、ハンカチで顔を押さえてしまいました。

「え、」
「あ、ご、ごめんなさい、なまえさん、涙が」
「……え?」

なまえさんは自分の頬に手を伸ばして、「あ、本当だ」と自分でも驚いていました。「だ、大丈夫ですか? どこか痛むとか?」私の言葉にこの人は慌てて「違います、ちょっと、なんでしょうね、言葉にするのは難しいですけど」

「今日も一日無事であるようにって、祈っていたら、つい」

誰を、なんて聞かなくてもわかります。
半分のハートのネックレスを、なまえさんに渡した、『その人』

「なまえさんは、いつもその人の為に祈っていたんですね」
「え、いや、あの、ちゃ、ちゃんと、リヒトくんとか第八の皆の無事も祈ってましたよ」
「照れなくてもいいんですよ。その人がとっても大事なんですね」

早朝の白い太陽が、なまえさんの首元に差し込んで、きら、となまえさんの宝物をより綺麗に照らしました。

「……離れていると、これくらいしかできませんから。太陽神様じゃなくても、どんな神様でもいいから、危ないことに気付いたり、一つでも良いことがあったり、怪我も病気もしないように、できるだけ幸せに生きられるように、良い方向へ進めるように、力を貸して貰えたらって」

ぱん、と手を打って、つい、身を乗り出してしまいます。

「素敵です!」

こんなに素直な人が心の底から好きになるのだから、相手の人もすごく素直ないい人に違いありません。私は楽しくなって、なまえさんの手を握りました。

「いつか会えるといいですね!」

なまえさんは照れたように笑っていました。
リヒトさんや他の皆は大人子供なんて言うけど、この笑顔は、一人の女の人の顔、です!


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20191128:次から浅草修行編

 

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