004/火縄


なまえさん、と呼ばれ慣れない呼ばれ方をすることが増えた。
呼んでくれる声も増えて、楽しいような気がするけれど、いつも呼んでくれていた声は聞けなくなってしまった。会いたいとは思っていて、リヒトくんも「会う?」と聞いてくれる。のだが、私は、そっと首を横に振る。「今会ってしまったら、戻れないかも」だから大丈夫。もうしばらくはこのままで。
そして、隣に立つ人も多彩になった。
ジョーカーもリヒトくんも背が高いから見上げてばかりだったけれど、女の子の隣は首が痛まないし、いい匂いがする。良い発見だ。
今日は、火縄中隊長の手伝いとして隣に立っている。食料品や備品など、まとめて買い出しに出るのだ。

「晴れて良かったですね」
「ああ、そうだな」

この人はいい人だ。何故かいつも目を見開いているけれど、こっそり私に食べ物の好みを聞いてくれたりだとか、マキさんやタマキさん、シスターに振り回されていないかと気を使ってくれたりもした。シンラさん曰く私は「実はアーサーと同じくらいマイペースですよね」らしいので、私の方が振り回しているのかもしれない。
それをそのまま火縄中隊長に言ってみると、「不快だと思ったらそう言ってやれ」とまた心配された。
いや……、多分……、シンラさんには悪気はなかったと思うのだが……、どうだろうか……?

「第八には慣れたか」
「はい。皆不思議なくらい優しくしてくれますから」
「……、反応が面白いんだろうな」
「反応が?」

皆、にはもちろん火縄中隊長も入っている。つまり、火縄中隊長も少なからず私の反応が面白いと思っているから世話を焼いてくれているということか? 面白い。反応が? リヒトくんもジョーカーもそういう、私の反応を面白がっているらしいところはあったけれど、ここに来てもそうなのか。

「……他とは違うってことですよね? もしかして、馴染めてませんか」
「馴染めていないと思うのか?」
「いいえ、……仲良くさせて貰ってると思います」
「なら、心配する必要はない」

なにかまずいところや修正したほうが良いところがあれば遠慮なく言って欲しいと皆に言ってある。誰もなにも言わないのは優しさなのか諦めなのか。リヒトくんは決まって「ぜんぜんオッケー、大丈夫だよ」と私の頭をぐしゃぐしゃと撫でるのであった。
それにしても、灰島から来たことについて何かしら突っ込まれることくらいはあるかも、と言われていたのに、誰もなにも言わないような……。ううむ、と考え込むと、火縄中隊長はややおかしそうに教えてくれた。

「リヒトの考えはいまいち読めないが、なまえの考えていることは顔に書いてあるからな」
「ああそれは、」

ジョーカーにも良く言われる。と言いそうになってふっと止める。「顔に書いてあるんだよ」と得意気な声が聞こえた気がした。

「リヒトくんもよく言ってます。そんなにわかりやすいですか」
「感情と表情とが全部表に出てるからな。作戦なら大したものだが、現状、お前を怪しむ必要性を感じない」

器用なのか不器用なのかわからない、と火縄中隊長はほんの少し笑っていた。しかし、わかりやすくて大丈夫なのか? 私は嘘を吐いて第八に入っているし、ジョーカーのことはバレてはいけない。私を通して筒抜けになることはないのか……。

「それで」
「はい」
「今日の夕飯は何が食いたい?」
「!!」

今日の当番は火縄中隊長らしい!

「ええと、それなら……、まだ食べたことないのが食べたいです」
「それは……、お前が今まで生きてきた中で、という意味か、それとも俺が作った料理の中で、という意味かどっちだ?」
「うーん、そう、ですね、でも、火縄中隊長が作る料理全部美味しいから、なんでも食べます」

食べられないものって今のところないんです、私が言うと、火縄中隊長はすっと私の方へ手を伸ばした。

「好き嫌いがないのはエライな」

そんなことを言いながら私の頭をひと撫でし、しまったという顔でこちらを見た。え、何かおかしかっただろうか。やや不安になるものの、褒められたことには違いない。に、と笑って見せると、改めて頭を撫でて貰えた。


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20191128:たぶんシンラくんも年に関係なくにーちゃんしてると思う。ヴァルカンも絶対菓子とかよくあげてる。

 

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