なんでとは聞けない/リヒト


火縄中隊長の机に書類を置く。これで仕事は一段落だ。お茶でも淹れようかとふと外を見ると、門のあたりにもたれ掛かる女性がいることに気付いた。帽子を目深にかぶってサングラスをしている。顔は見えないし遠目なのだけれど、とんでもなくスタイルが良いのがわかる。何故か、見えない顔への期待感が高まる。不思議な印象の人だった。通り過ぎていく人たちもちらちらとその女の人を見ている。「どうした?」と火縄中隊長が言ったので、俺は窓の外を指さした。

「門のところに、見たことない人が……」
「誰かの知り合いか……?」

マキさんも窓に近寄って来てひょいと外を見る。俺の感じている不思議な印象は俺だけのものではないらしく、マキさんと、次いでタマキまでもがほうっと息を吐く。

「でも、なんだか、あの人……」
「……めちゃくちゃスタイル良いですね、かっこいい……」

あんなところに居るのだから何か用があるのだろうか。まさかあれだけ堂々としていて伝道者の一味ということもないだろうが、放っておくには存在感がありすぎる。「俺、ちょっと行ってきましょうか」と、事務室から出て行こうとすると、扉が空いて、ひょろりとリヒト捜査官が顔を出す。「あれ?」

「みなさんどうしたんです? そんなに窓に寄って……」

何か面白いことでもありますか? と言いながらみんなに倣って窓に寄ったリヒト捜査官は「あ」と……。あ?

「え、ま、まさか」
「すいません。ちょっと出てきますね」

さらりと部屋から出て行ってしまって、その女性の所へと歩み寄った。女性の方もリヒトさんの姿を確認すると軽く手を上げて、鞄の中から数枚の書類を差し出した。忘れ物? 届け物? わからないが、気安い様子だ。距離も近い。友人、というよりは、こ、恋人同士に見える。
ふと、リヒトさんがこちらを振り向いて、ぴ、指さした。なんだ? 女性はやや呆れたように肩をすくめたが、その後、そっとサングラスを取ってこちらを見上げる。案の定、かなり綺麗な人だ。と、言うか、あれ、あの人って。大通りの大きな看板が思い出される。芯の通った強い眼差しには覚えがある。一方的に知っている。あ の 人 は!!!

「あーーーーーーー!!!! なまえみょうじ!!!!! なまえみょうじですよあの人!!!! ほら、今月だとこの雑誌の表紙と、ここと、それからこっちも!!!! 今を時めくスーパーモデルがなんで!!?!?!?」

改めてリヒトさんの正面に立つ女性を見つめる。リヒトさんは何を言ったのだろう、なまえさんはひらひらとこちらに手を振って、に、と笑った。ファンサだ……。タマキはファンだったのか耐えられなくなって窓を開け、ぶんぶんと手を振っていた。「さ、サイン貰いに行ってもいいかな!?」などとマキさんと話ている。
そうこうしている間に二人は別れて、リヒトさんが戻って来る。
真っ先にタマキが問い詰める。

「リ、リヒトさん! 今の、なまえさんですよね!? なんで!? 友達なんですか!?」

うん、と頷いて。

「僕の彼女っすよ」

美人でしょ、とリヒト捜査官は自信満々に笑った。


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20191127:ヴィクトル・リヒトあまりにあつい……

 

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