「選べ!!!!!」


桜備大隊長から呼び出された。もしや、なにか知らない内にやらかしただろうかと恐々部屋に入るのだが、怒っている様子はない。「落ち着いて聞いてくれ」と言われた。は!?もしや左遷か!?とまた恐ろしくなってくると一枚の紙を手渡された。掲題は、ん? 招待状?

「灰島重工社長の誕生日会……? へえ、そんなのやってるんですねえ。大きい会社は違いますね」
「第八にも招待状が来ててなあ……。慣れないが、個人的に支援もしてもらってる。行かないわけにはいかないわけだ」
「そうですねえ。え、皆で行くんです? また第五にお留守番とか頼んで?」
「いいや、それが……、だな……」
「はい」
「代表者二名で、とあるんだ」
「へえ、じゃあ、桜備大隊長とか火縄中隊長とかマキさんとかで行くってことです?」
「……」
「え? 違うんですか?」

桜備大隊長は大きく溜息を吐き、頭を抱えて言った。

「何故か、なまえ。君に指名が入っている」
「……、な、何故……?」
「わからん。何故か、だ」
「だから、君に行ってもらうわけだが、それは構わないか?」
「え、はい、もちろん……」
「で」
「はい」
「もう一人は、なまえが連れて行きたいと思う奴を連れて行って構わない」
「そんなんでいいんですか?」
「ああ。頼めるか」

「了解しました」と、軽い気持ちで、かるーく、敬礼を、した。



「……誰か一人、か」

誰と行くのが良いだろうか。ぼんやり考えながら歩いていると、向かい側からシンラとアーサーが押し合いながら走り込んで来た。私を見つけると更に速度を増して、ぐちゃぐちゃになりながら私の前で止まった。「なまえさん!」「なまえ!」勢いに気圧されて私はやや後ろに下がりながら「なに?」と聞く。

「俺と! 俺と行きましょう!」
「いいや俺とだ! 舞踏会には騎士王と愛馬が決まっているだろう!」
「それを言うなら相場だろバカ!」
「お前がバカだ!」

……、あっ、例の誕生日会の話か!? 今は言い争いをしているからいいが、これ、私はふたりの内どちらかを選ばないと収まらないのでは、うわあ!? 後ずさりしていたら廊下の角にひゅ、と引き込まれた。

「え、あ、り、リヒトくん!?」
「しっ、静かに……、よし、誰もいないな……」
「ええっと、ありがとうござ、」
「僕にしませんか!」
「えっ」

これも、例の誕生日会の話だ!? 何故こんなに一気に広がっているのだろう。一体全体どういうことだ? 「え、いや、あの、」などと言っていると、また後ろから私の肩に手が乗せられた。右と左とで違う手だ。

「困っているなら、俺が行こう。俺ならマナーも指導してやれる」
「いいや、迷ってんなら俺とだな! 度肝抜いてやろうぜ」

圧……、熱……、え、嘘だろなにこれ。などと考えていると、ひょこりと廊下の角から桜備大隊長が控えめに顔を出した。何か言っている。助けてくれるのだろうか。ええと、なに? なんでそんな読唇術を要求してくるんだ、うーん。お、れ、で、も、……「俺でもいいぞ」じゃないわ。もう手遅れだその助け舟は。

「いっそ大隊長権限で指定してくれればよかったのに……」
「あの流れなら! 大隊長と行くのが無難ですよねって話になると思ったんだよ! 誘われたかったの!」

なんて不必要な意地を……、そのせいでこんな目にあっている……。四方八方から言い合いが聞こえるが、私はするりと抜け出し、窓から外に飛び出して第八特殊消防協会の外に逃げる。のだが、外には女子五人が待ち受けている。あそこは安全地帯か、それとも……。

「なまえさん! 今週末なまえさんと一緒にいくと美味しいもの食べられるって本当ですか!」
「私も行きたーい!」
「いつも皆さんばっかりずるいですよ! 今回は私に譲って下さい!」
「男連中なんてアテにならないよ! 私と行こう!」
「うるさいぞ! 今回は灰島に詳しい私こそ相応しい!」

うわわわわわ地雷原の方だ! 私は、くっと方向を変えて塀を飛び越えると、足が地面に着くより先に誰かに体を受け止められた。

「よう、嬢ちゃん。今日も元気だな」
「あえっ!? 紺炉中隊長……、紅丸大隊長まで……? ど、どうしたんです? 今はちょっと第八立て込んでて……」
「その例の件、俺とどうだい?」
「へ?」
「紺炉。お前はちょっと黙ってろ。……なまえよお、最強の消防官を侍らせてえと思わねェか?」

この世界に逃げ場はないのか? と言うかこの人たち浅草はどうした!? 紺炉中隊長に掴まれていて足が浮いているから逃げられない……。相手を決めてしまえばいいことなのだとは思いつつも、どこからか聞き覚えのある笛の音と、遠くで氷の柱が出来るのも見えた。更にはゆら、と漂う黒煙が近付く。ああああなんだこれ。一体全体どこまで知れ渡っているのだろう。何故にこんな大ごとに? これはなんの試練だ? こんなに広がってしまってどうして一人を選ぶなどということができるだろう? 事態を収拾できるのは誰だ? ひょっとして私か?
紺炉中隊長は私をそっと降ろしてくれた。
二人から、手が差し伸べられる。
いや、いやいや。「あ、あそこに居たぞ!」「第七の二人までいるじゃねえか! 誰だ教えたやつ!」「知らねえとにかく急げ!」なだれ込むように私の前に人だかりが出来上がる。そして皆一様に叫ぶ。

「俺を選べ」


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20191127:この後は白装束が来てもいいし、ジョーカーが来てもいいし、仁義なきじゃんけん大会をしてもいいんじゃないですかね……。平八郎さんからもらったセリフ「俺を選べ」で書かせて頂きました楽しかった。

 

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