強くなりたい/紅丸


まったくこの女は大したものだ、とため息を吐いた。

「お前はまたやったのか」
「あ、若……? 面目ない……」

眠っているなまえの布団のすぐ横に座り、紅丸はそっと額に触れてやった。熱い。間違いなく熱があるし、息が荒くて辛そうだ。
そろそろかとは思っていたが、案の定ぶっ倒れやがった。なまえはどうにも、自分の体の活動限界の見極めが下手で、普通に仕事をしているだけ(と本人は言う)で、よく熱を出して倒れる。医者には毎回「過労ですね」と診断される。「休んで下さい」と。

「いい加減に自分を追い込み過ぎるのをやめろ」
「いけると思ったんですけどね」
「前回は道端にぶっ倒れてて、今回は風呂に沈んでたらしいじゃねェか」

どっちも、運が悪ければ死んでいる。だと言うのに、なまえは前々回は駅のホームでちょっと座ったら気絶してましたしねえ、と軽く笑う。笑いごとではない。

「死にてェのか?」
「とんでもない。必死に生きてるとふと死に近付いているだけなんです。困ったもんですね」
「他人事みたいに言ってんじゃねェ」
「あいたっ」

びし、と指を弾いて額に当てる。……これでもかというくらい手加減しているから痛くはないはずだ。
尚も、へへ、と笑うなまえに紅丸は言う。こいつは全く反省というものをしていない。いいや、しているのかもしれないが結局倒れていては同じことだ。最近なにかと物騒だというのに、目の届かない場所で勝手に力尽きてもらっては困る。

「ところで今日は、本当ならなんの日か覚えてるか」
「一緒にご飯でもって言って下さってた日ですね」
「いけねェじゃねえか。どうしてくれんだ」

体調の悪い人間を責めるのもやや気が引けるが、もうこうして計画が潰された回数も片手では数えられなくなってきた。文句の一つ二つ三つ四つでも言ってやらなければ気が済まない。

「ごめんなさい。もしあれなら、紺炉さんとか、若も大事な時間なんですから、好きなように過ごしてください」
「そんな言葉が聞きてェわけじゃねえよ。俺はお前さんと出かけるのを約束した瞬間から楽しみにしてたってのに。どうしてくれんだ、なまえよォ」
「なんか、ちょっと不思議な責められ方してますねこれ……?」

なまえは深く息を吸って、吐いて、呼吸を整える。

「ごめんなさい。次からは気を付けます。この埋め合わせはいつか必ず」
「……もうその言葉を聞くのも飽きちまったな。毎回俺との予定に合わせて倒れやがって」
「なんなんでしょうね? 若と会うってわかってるから、気が抜けるんでしょうか」
「開き直るんじゃねェ」
「あはは」

この女。
どこまでも気楽な奴だ。
紅丸がどれだけ文句を言おうとも、結局は許して、次の約束を取り付けて、その後甲斐甲斐しくなまえの世話を焼くことを、もう彼女はよく知っている。このままではいけない、と紅丸はじっと考える。
考えた後、能天気な女の上に跨って、やや体重をかけて見下ろしてやる。

「お前がそんな調子じゃあ手も出せねェ」
「あ、あの……重いですよ……?」
「これまでの色々を全部込めて甚振ってやりてェんだが、倒れてる女相手にひどくするってのもな……、なァ?」
「な、なあ、と、言われましても……」
「ずるいじゃねェか、お前ばっかりお前をいじめてよ」

はじめての展開になまえはすっかり慌てている。
彼女の顔に手のひらを張り付けて、にやりと笑う。

「俺にも傷付けさせてくれや」
「……いや、ええ、と、べ、別に、私が私を好んで痛めつけているわけでは……」

いっそ趣味ではと思えるくらいによく倒れるから、もしかしたら痛いのが好みなのかもしれないと思ったこともあった。

「ほお」

違うと言うなら、できるはずだ。

「それなら、」

わからせてやる。

「俺のものを傷付けるのは誰だ」

つらいのもしんどいのも痛いのも、全部俺が与えてやりたい。その役を奪うっていうなら、例えなまえと言えど許すわけにはいかない。

「お前じゃないってんなら、どうにでもしてきてやるが」

浅草の暴れん坊を舐めるなよ、と強めに押さえ付けてやる。と、なまえは呆然としながら「……ごめんなさい、次からは絶対気を付けますからその怖い顔やめてください」と震えていた。「俺の顔はいつでもこんなもんだ」仕方がないから上から退いて、なまえの手でしばらく遊んだ。


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20191126:リプきた台詞で!です!「俺のものを傷付けるのは誰だ」でした!うさぎさんに頂きましたー!


 

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