もうちょっと頑張ってみるか/ジョーカー


不思議な縁だ。それは彼にとっての正義だったのか気まぐれだったのか。
聞いてもはぐらかされてしまって、本当のところはわからないだろうから聞いたことがない。それはいいんだけれど、ただ、一つだけはっきりさせておきたいことがあって、じっと部屋に遊びに来たジョーカーさんを見つめる。

「どうした?」
「阿呆みたいなこと聞いてもいいですか?」
「ハハッ、そりゃ楽しみだ」

彼は一年くらい前、私を悪漢から助けてくれた。お礼に貰ってくれと渡したお弁当が縁を結び、時々私の料理を食べに来るようになった。きっと気に入らなければわざわざ来ないし、面倒であれば縁など切ってしまうだろう。だから、嫌われていないことはわかるのだけれど、嫌われてはいないようだ、と思い続けて一つ季節が回った今。そんな曖昧なものでは嫌になって決意した。

「ジョーカーさんて、私の事どう思ってるんです?」
「なるほど。そりゃ阿呆みたいだな」
「でしょ? でも、この悩みも困りごともない私が悩んでるし困ってるんですよ」

ジョーカーさんが来るかもしれない、と食事は二人分作るようになってしまったし(役立つこともあれば、まとめて次の日の弁当になることもある)、部屋が散らかってくるとちゃんと片付けるようになった(下着をそのあたりに放置しておくなんてもっての他)、ふと窓を見ることも多くなって、最近だと毎日一度はジョーカーさんのことを考えている。

「ね、大変なことだと思いませんか?」

ただ、嫌われてはいない、だけでは何故か、どうしてか、待つ時間がつらくなった。

「……ああ。大変だな。一大事じゃねェか」
「うん。だから、答えてもらえますか?」

「俺がお前を、なまえのことをどう思っているか、ね」と彼は持っている煙草を一度吸い込み、灰皿にぐしゃりと潰して私の顔の前でふう、と息を吐く。「うっ」副流煙が目に沁みる。あ、まった、変なとこ入ったっ。「お前は、」

「世界で一番可愛い奴」

「だと、思ってるぜ」とジョーカーさんは言った。と思う。
のだが、私はそれどころではない。げほげほと咳を繰り返し、うまく呼吸ができなくて苦しんでいる。

「げほ、っ、ぐ、ごほっ、ん……っ、ああもう……」

涙が出て来た。なんてことしやがる。

「……オイ? 大丈夫か?」
「私は今のでジョーカーさんのことちょっときらいになりました」
「お、おいおい。ちゃんとお前の阿呆みたいな質問に答えてやっただろうが」

ジョーカーさんが私の背を擦るが、これは許されることではない。確かに悪漢から助けてもらった恩はあるが、甲斐甲斐しくご飯を作ったりベッドを提供したりしている私になんの恨みがあってこんなことを。

「ごほ、ごっほ……、止まらな……、あー……っ、」
「……」

水でも飲もうとよろけながら冷蔵庫に向かうと、ジョーカーさんに噛みつかれた。いや、これは、キス、なのだろうけれど、今、口を塞がれると、息、が……。

「苦しい!」

ど、と額を思い切りジョーカーさんに打ちつけた「ぐっ」と彼は小さく声を漏らすが、私のこの苦しみはこんなものではない。女子を泣かすな。しかも追い打ちをかけるとは許すまじジョーカーさん。
私は水をコップに入れて飲み干すと、ようやく呼吸が落ち着いた。ええと、あれ、で?

「なんでしたっけ」
「お前は料理以外はからっきしだって話だよ……」

なるほど。料理がそんなに気に入っているんだなあ。


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20191123:リプ来た台詞で書かせて頂いた奴です。紅茶野さんに頂いた「世界で一番可愛いやつ」でした!

 

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